空白を満たしなさい(下) (講談社文庫 ひ 39-4)
空白を満たしなさい(下) (講談社文庫 ひ 39-4) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
下巻に入って、ゴッホの自画像の持つ意味も、そして主題もまた明らかになった。つまるところ、この作家特有の思想である「分人」を小説として描き出すことに主眼があったことになる。言っていることはわからないではないが、小説として語ることの意味においては、はなはだ疑問である。小説が小説として自立するには、その形式においてしか語り得ないものであるはずだ。ところが、本書では作家の思想が先行し、それを説得するためrに小説という形式が用いられているようだ。平野啓一郎氏の本は、これまでに何作か読んできたが、本書はお薦めしない。
2019/03/24
おしゃべりメガネ
作家さんにはこの人しかこういうの書けないだろうなという作品が少なからずあると思われ、平野さんの作品をそんなに読んでるワケではありませんが、やっぱりこの方もそうなんだろうなぁと感じました。下巻は上巻にてじっくりと築き上げた世界観をしっかりと固めていき、家族との絆、生きることの大切さなどを教典のように綴っていきます。そもそも本作は一体どういうジャンルなのか?なんて細かいコトは気にしてはいけない圧倒的な筆力を感じずにはいられません。世の中にはこういう作品を書けてしまう方もいるんだなぁと、ひたすら驚愕でした。
2018/11/23
chantal(シャンタール)
お釈迦様は人生とは生まれた落ちた時から「生老病死」の四苦を背負って生きる事だと、生きることは苦しみだと言うことを発見した。生まれたその日から、いつか死ぬ事は決まっている、その日までをどう生きるか?多くの人が考え悩みながら生きている事と思う。辛いばかりの人生もあるだろう、それでも人は生きなければいけないのか?家族のためにと頑張りすぎる人生が本当に報われるのか?なんだか色々な事を考えさせられたなあ。死んでしまえばただの「無」になるのか、生きた証を残せないのか、残す意味はあるのか・・難しいよね、生きるって。
2020/06/27
ナマアタタカイカタタタキキ
“分人主義”という概念は、私にとっても非常に納得のいくもので、日頃から沢山の人々と接する中で意識させられていたことを、きちんと言語化されたような感覚だった。その人を失うことは、同時にその人と接する際に表れる自分自身を失うことになる。けれど、肉体や精神の消滅がイコールその人の存在や影響の消滅、とも言い切れない。その辺の講釈があまりに先立っていて、途中で思想書であるかのように錯覚し、本筋の物語が教材か何かの挿話のようにさえ思えてきた。小説としてどうかと言われると…気づきはあっても、魂は震えない…そんな感じ。→
2020/12/15
Willie the Wildcat
幸・不幸。DVDが起点となり、ラデックのグノーシス主義が転機の暗喩であり、池端の”分人”が転機の明喩。生死は両極ではなく、矛盾でもなく、同極の異なる視点。辿り着く「生」への感謝。消すではなく、見守る。辿り着いた受容後の「喪」の作業。頭に浮かぶのが、キューブラー・ロスの『死の受容過程』。顛末が問題ではない。とはいえ、もやもやする2点。何故、”選ばれた”のか?そして佐伯の正体は?敢えて言えば、前者は同極、後者は両極かな。I can't face this life alone♪エンディングにぴったりの選曲也。
2023/10/21
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