新装版 頼子のために (講談社文庫 の 7-15)
新装版 頼子のために (講談社文庫 の 7-15) / 感想・レビュー
オーウェン
原作が1989年の新装版ということだが、時代を感じる描写は極力削いであるように思う。娘の頼子が殺されたことで、復讐に燃える父は手記を残して犯人と目される人間を殺害して、自身も死のうとする。事件を依頼された法月綸太郎は、政治家や警察の軋轢によって、立場を危うくしながらも推理に臨む。あるアーティストの曲がきっかけになったり、手記の中の疑問。これらが綸太郎によって露わになるが、最終的な思惑はそれを凌ぐ。 お互いの想いがすれ違って生まれた犯罪であり、ラストに残る嫌な余韻はあまりこのシリーズにはないため新鮮だった。
2021/09/27
HANA
娘を殺された父親。彼は密かに犯人を突き止め刺殺、手記を残して自殺を図るも…。という単純な事件だったはずが、手記の違和感から次々と隠された秘密が明らかになってくる。読んでいて思ったのは、やはり法月綸太郎は足の探偵だという事。安楽椅子型の閃きこそ少ないものの、行動によって少しずつ手掛かりを手に入れていく。手記は所謂「信頼できない語り手」なのでそこに書かれている事は全て疑いながら読んだのだが、そう来たのかあ。真相を知った後アレの意味が一気に反転するのが何とも見事であった。後、主要登場人物全員、愛が重いし怖いよ。
2018/04/04
しん
初の法月さん。娘を殺された父親の凶行が綴られた手記による独白から、事件の真相を明らかにしていく。読みやすい文章でテンポよく、徐々に真実に近付いていくのは続きが気になり一気読みでした。そして終盤のどんでん返しに驚愕、と小説として綺麗にまとまっているなあという印象です。しかし、後味の悪さは物凄いです。読後は面白かったな~という気持ちと複雑な気持ちが入り交じるようでした。ネタバレなしではあまり語れませんが、このタイトルは憎いですね(笑)
2019/04/22
Yuki
旧版以来何年ぶりだろう。オチもだいたい覚えていたので(後味がよくないから印象が強い)さらっと再読。溺愛する娘を殺された父親の復讐を記録した手記から矛盾点を見つけ出し、行動する法月綸太郎。人の情念が倫理を飛び越えたところでそれまで描かれていた絵が反転する。後味の悪さが人を選ぶように思うが、ハードボイルドや本格といった著者の得意分野が全面に出た作品だと思う。
2018/08/27
東京湾
「一番巧妙な嘘は、真実の粉をまぶした嘘なのだ」最愛の娘を殺された父親の、復讐に至るまでの手記。そこから始まる欺瞞と愛憎のミステリー。導入の手記は娘を失った無念や真実を追求する執念が溢れんばかりに叙述され、テンポもよく引き込まれた。その分探偵法月綸太郎による手記においての矛盾の分析や謎の解明は、法月と同期して推理でき面白い。そして真相に近づけば近づく程に膨れ上がる、想像するだに怖気立つ疑念。ここまで後味の悪い謎の解明はそうそうないだろう。読み終えた後、この題名にやるせない嘆息の音を吐き出さずにはいられない。
2018/02/04
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