喜多川歌麿女絵草紙 (講談社文庫 ふ 2-21)
喜多川歌麿女絵草紙 (講談社文庫 ふ 2-21) / 感想・レビュー
じいじ
浮世絵師・歌麿と、彼を取り巻く女たちを描いた六連作集。あくまでも藤沢周平の目で観た歌麿物語なのがミソである。結末はすべてめでたしてとはいかないが、藤沢周平の持ち味が存分にでた面白い仕上がりです。10年もの間、弟子と思って可愛がってきた娘に、ある日すでに女房を亡くしている歌麿が、心乱れる行動に…。中年男の本能・女性観が、何とも切ないのだが共感も感じられる。また、歌麿の仕事感も面白い。自分が愛せない女を描くのは、彼にとっては大変辛いようである。読み終えて思った。この物語の主人公は、歌麿+藤沢周平が重なります。
2021/09/11
森の三時
映画の写楽やHOKUSAIなどに出てくる喜多川歌麿は、好色で斜に構えた嫌な男という感じです。本当のところ浮世絵師たちの素性はわからないことが多いという中で藤沢周平さんが歌麿に貼られたレッテルをはがそうとした作品。美人画を描く彼の態度に女という生き物に対する愛がありました。その女の哀切に寄り添う姿は新たな歌麿像を与えてくれるものでした。
2023/02/23
花林糖
(図書館本/購入)【海坂藩城下町 第5回読書の集い「冬」】喜多川歌麿と六人の美人画のモデルになる女性達の連作短編六話で、蔦屋重三郎や売れる前の曲亭馬琴にこれから世に出る東洲斎写楽まで登場。政治に振り回される版元事情も織り込まれ楽しく読めました。ただ登場する女性達が皆不憫で一話読むごとに溜息でした。最後は歌麿が自分の衰え(絵師としての)を認識した所で終了。時代背景物語の雰囲気が好みな本。「さくら花散る/梅雨降る町で/蜩の朝/赤い鱗雲/霧にひとり/夜に凍えて」
2020/01/08
加納恭史
「橋ものがたり」も評判が高いが、ここでは、この本の喜多川歌麿に藤沢周平がどのように迫ったかについて考察する。宵待草さんが大変に気に入ったとか。気になる一冊。最初の短編は「さくら花散る」。喜多川歌麿と描かれた女の関係は興味深い。よく笑う女だった。こういう陽気な女を歌麿は嫌いでない。水茶屋鈴屋の二階から大川が見える。歌麿は川の桜を見た。おこんは「先生、あたいをお花見に連れて行ってくれません」と言う。まあその日は筆を置いて女の手を握った。二人で少し飲もうというわけだ。後から歌麿は財布の小銭が減っていると思った。
2024/06/27
APIRU
珍魚落雁羞花閉月。見目麗しい女性たちを描き続けた喜多川歌麿。稀代の浮世絵師と六人の美しい女人たちの、哀しく遣る瀬無い六篇でした。端正な筆致を追うのは愉悦であり、そしてそれによって綴られる哀切には、嘆息を禁じ得ないものがあります。手癖の悪い女、惚れっぽい女、八九三者に付き纏われる女。美しい標致のその裏には、秘めたる想いや境遇が潜んでいる。浮世絵に描かれる中、次第にそれらが露わになっていく。己の落ち目を悟った浮世絵師と遂げられない想いを覚った女弟子。そんな最後の『夜に凍えて』が、また胸に迫るものがありました。
2021/11/13
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