大江健三郎全小説 第1巻 (大江健三郎 全小説)
大江健三郎全小説 第1巻 (大江健三郎 全小説) / 感想・レビュー
おたま
大江健三郎の最初期の『芽むしり仔撃ち』と『われらの時代』の二長編が収録されており、それらと気になった短編、『石膏マスク』『偽証の時』『人間の羊』『暗い川 おもい櫂』『不意の唖』を読んでみた。『芽むしり仔撃ち』では大変瑞々しい感受性と、少年時代における一種の神話化とを感じる。『われらの時代』では、その時代(1950年代後半)の青年の感性が、世間を逆なでする性的な表現や逸脱する行動を通して、過激に描かれる。短編で核となるテーマを固めていき、それを集約することで長編の物語を組み上げていっているように感じた。
2023/01/05
燃えつきた棒
東京大学ヒューマニティーズセンター主催のイベント「大江健三郎のアルバイト小説を読む」(2024.8.8開催)に参加するので、手に取った。 ◯「飼育」: 山腹の村で黒人兵を飼育する。 だが、本当に「飼育」されているのは誰だろうか? 戦災から癒え、朝鮮戦争、ベトナム戦争で補給基地の役割を果たすことでさらに肥え太り、今では多額の思いやり予算さえも貢ぐことができるまでになったこの国。 北海道から沖縄まで、全国各地に130か所の米軍基地(1024平方キロメートル)を抱え、首都圏の上空には、新潟、栃木、群馬、→
2024/09/21
ぐうぐう
反復としての小説。バイト、死としての物体、動物殺し、隔離、支配、情人、米兵、等々。ただし、反復は完全ではない。そこには確かなズレがあり、新たなアイテムや主題が登場し、よって広がっていく。それはまさしく世界を知る行為としての反復であり、ズレなのだ。やがて小説は、性や政治が占める割合を多くするものの、世界であることに違いはなく、であるからこそ、切実さからは逃れられない。大江健三郎の、小説を書くことで世界を理解していく試みを通して読者は、同じく世界を知ることになる。(つづく)
2024/10/09
なお
『芽むしり仔撃ち』を読む。物語全体が夢の中で語られているよう。具体的な地名も主人公の名前さえも明らかにされない。戦時中、感化院(罪を犯した少年達の施設)の少年達はある村に疎開する。しかし、疫病が起こった村に少年達だけを残し、村人は去ってしまう。年長である僕は年下の子らを纏め、子どもだけで暮らして行くのだが…。この物語は主人公も含め差別をされる者が多く登場する。ごく普通の人間的な感情は、彼らの存在そのものを忌む他者によって無きが如くにされる。それは時代性を写した暗示なのだろうか。23歳、東大在学中の著作。
2023/05/25
ここぽぽ
奇妙な仕事から、死者の奢り、他人の足と読み進めて、短編なのだけれど、気が滅入ってしまった。飼育もしんどい。鳩で救いがあるかと思いきや、戦いの今日まで飛ばし読み。描写がねっとりした空気感を孕んで、人の心のモヤモヤした曖昧模糊な部分を、形にしている。悪や正義、白と黒できれいに治まらない世界を、暴力的な衝動を切り取っていて、すごいと思う。元気なときに再挑戦。全部読むのに気合いがいると思う。
2024/01/15
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