大江健三郎全小説 第12巻 (大江健三郎 全小説)
大江健三郎全小説 第12巻 (大江健三郎 全小説) / 感想・レビュー
ケイトKATE
『燃えあがる緑の木』には、“ギー兄さん”と教会の形成の物語がオウムや統一教会といったカルト教団と重なる所がある。しかし、“ギー兄さん”とカルト教団には大きな違いがある。“ギー兄さん”が酷い危害を加えられても憎しみを抱かず、相手に見返りも求めなかったことである。ただ、自分の祈りが「一滴の水が地面にしみわたる」ことで、「一瞬よりはいくらか長く続く間」を感じられることを望んでいた。それが、人間にとっての魂の救済となり、信仰へと繋がると大江健三郎は考えたのではないだろうか。
2023/05/04
ケイトKATE
隆は以前から「魂のこと」をしたいという夢を持っていたので“ギー兄さん”になることを受け入れる。やがて、“ギー兄さん”は癌の少年や心臓病の少年を手に触れて治す奇跡を起こし、「救い主」として評判が高まり、“サッチャン”と共に教会を作ることになった。“ギー兄さん”を慕い教会に来る者が増える一方で、“ギー兄さん”の行為を胡散臭いものとして糾弾され軋轢も生まれた。それでも、“ギー兄さん”は「魂のこと」するべく「集中」することだけを心掛けた。本書が発表された時代、オウム真理教の事件が社会を震撼させていた。(続く)
2023/05/04
ケイトKATE
人間の生活において欠かせないものであった信仰。しかし、科学技術や文明が発達したことで、信仰に対して否定或いは無関心になる人が増えていった。それでも、人間は何かに縋ろうとするのも事実である。大江健三郎は最大の長編小説『燃えあがる緑の木』で、人間とって信仰とは魂の救済とは何かを両性具有者“サッチャン”という異色の登場人物を語り手にして問うている。主人公の隆は愛媛県の山村で農業活動していたが、死期が近づいていた村の長老の“オーバー”から新しい“ギー兄さん”として突如指名される。(続く)
2023/05/04
ブルーツ・リー
「森の物語の終わり」というものを見据えて大江健三郎が示した三部作。 大江健三郎にとって「森の物語」を書く事が使命であるから、これが完結すれば、書くものはもう無いと思っても不思議無いと思われて、これにて執筆活動を終える積りだったという。 新たなるギー兄さんを「救い人」とする事と、森の「炎上」によって、森の物語は終わる。 カルト宗教の失敗に物語の終焉を見る結末は、宗教から距離を置く作者らしいだろうか。 「森」の比喩的な「炎上」とカルト宗教の中から生まれつつある新時代?を見据えて終わる点は大江健三郎らしいか。
2023/02/18
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