異類婚姻譚 (講談社文庫 も 48-6)
異類婚姻譚 (講談社文庫 も 48-6) / 感想・レビュー
absinthe
夫婦とはそもそも異類婚なんじゃないの?とにかく全く赤の他人が同じ屋根の下で暮らすんだから、トラブルが起こらないわけが無い。そうんな異物感と次第にどこか溶け合って一緒くたになっていくような感覚。この変遷はふと我に返るとホラーよろしく『インスマウスの影』みたいな感覚に陥ることも。融合の後にたどり着くのはキメラ?LCL?今の自分て一体何?と問いかけたくなる問題作。
2019/11/24
さてさて
『ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた』。そんな言葉に旦那との関係性を考える主人公の『私』が辿るまさかの結末を見る表題作など四つの中短編が収録されたこの作品。そこには不穏な雰囲気の中に見え隠れする異形なものたちの姿を感じる世界が描かれていました。とても読みやすい文体が故にスルスルと頭に入ってくるこの作品。それが故に、物語が発するホラーっぽさとシュールさがダイレクトに伝わるこの作品。なんだか癖になりそうな独特な味わいを感じさせる物語の中に、本谷有希子さんの上手さを見た作品でした。
2023/12/03
hit4papa
不条理系4作品が収録された短編集です。芥川賞受賞作「異類婚姻譚」は、顔が似てきたと自他共に認める夫婦の物語。やがて夫の顔のパーツがズレ始め...。所謂、倦怠期を表しているのでしょう。ラストのシュールな苦さは好みです。日常の崩壊の予感「トモ子のバウムクーヘン」、ひとが消えていく「〈犬たち〉」は、モダンホラーの趣がありますね。タイトルまんまの「藁の夫」は、藁なのに妻にモラハラをはたらくというぶっ飛んだ設定です。ちらちらと表れる’燃える’というワードに不穏な空気を感じざるを得ません。著書のこじらせ感は健在です。
2021/06/21
りゅう☆
夫婦の顔がだんだん似てくるなんてちょっとホラーを感じた『異類婚姻譚』/荒野の真ん中でクイズに答え続けてる感覚ってよく分からないけど、日常生活からふと感じる孤独感はイヤだな『トモ子のバウムクーヘン』/犬の言う「確かに。合格だな」って不気味な感じが拭えない『<犬たち>』/しつこいぞ『藁の夫』よ。どれだけ楽器に埋め尽くされてるの?…孤独感が生み出した不思議な感覚に満ちてる。なんか変。こういう世界に順応なんてできない。寓話。なるほど。それならこういうのもアリかな。こんな世界を生み出せるって本谷さんてスゴイなぁ。
2020/04/21
dr2006
本谷さんは最初に「乱暴と待機」を読んで以来の大ファン。本作は人物形容と斬新な異化が読者の脳に深いイメージを与え、ぐいっと異世界へ連れて行く作品。パートナーと長く一緒にいると、互いに相手の良いところも悪いところも受け入れ、やがて相手の身体との輪郭が曖昧になり同化する。良好な関係ならこの感覚は好ましいが、倦怠や同族嫌悪となれば崩壊を招く。作品の中で主人公のサンは、誰かと親しくなったとき、自分が段々とその人に置き換えられていく感覚に恐怖を感じるという。なるほど。感覚的な「同化」を新たな切り口で示した芥川賞作品。
2019/10/30
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