クロコダイル路地 (講談社文庫 み 11-13)
クロコダイル路地 (講談社文庫 み 11-13) / 感想・レビュー
HANA
quo fata trahunt, retrahuntque, sequamur.時は18世紀末。貴族、商人、貧民はフランス革命で運命を狂わされて…。これ凄い。千頁を超える大長編にもかかわらず時間を忘れて読み耽ってしまう。フランスとイギリスを股にかけて運命の転変とそれに縛られた人間の哀しさが見事に書き表されている。ただその背後には常に黄金に輝く森が透けて見えて。幻想文学が人生の背後にある上天の光を描くとしたら、本作はまさに堂々とした歴史ミステリと共に上質の幻想文学であった。あ、ちなみにバートンズも出ます。
2019/06/01
かめりあうさぎ
フランス革命前後のフランスとイギリスが舞台の幻想的な歴史小説。1000ページ超えの長編。稀なる読書体験。いやぁー面白かったです!皆川博子先生ありがとうございます。様々な階級や立場にある人物たちの視点が何度も入れ代わりながら進む構成。善悪の観念が根底から覆され信念が命取りになる時代。死より苦しい生。死よりグロテスクな生。言葉が圧倒的に美しい分、逆に恐ろしさが倍増でした。それにしても市民革命って結果をみると怖いですよね。自分の国がああいう歴史を背負っていたらどんな気持ちになるんだろうか。
2019/04/20
小夜風
【所蔵】重かった(本が)(笑)。冒頭の「竪琴の全音階を奏でるような、秋であった」という一文でもう心が震え、あっという間に物語の中に惹き込まれました。フランス革命は「ベルサイユのばら」で読んだくらいの知識しかありませんが、こんなに悲惨で恐ろしく残酷なことだったのですね。子ども時代に子どもでいられなかった子どもたちが大人になった時に何を考え何をするか…そこに救済はなく、とても苦しくて、幼い子どもたちを抱きしめてあげたくなりました。最後に鰐の眼の中に冒頭の光景が浮かんだ時はまた心が震えました。美しく悲しい物語。
2019/11/08
さや
やっと、ようやく、読み終わった!1000ページ越えの本を持ち歩くのは難儀なので家で少しずつ読んだ。作中で流れる年月もそれなりに長く、歴史の事実の裏側にある人生の物語だった。「革命」というのは外から名付けられたもので、渦中にいた人々にとっては自分たちの近辺の破壊や喪失でしかなく、そこにあるのはイメージとは真逆の虚無だったのでしょう。ロレンスとピエール(とフランソワ)が冒頭の場面からこう展開していくとは思わなかった。バートンズも齢を重ねた姿で登場。あくまでもゲストキャラだけれど、彼らの人生にも思いを馳せた。
2022/01/16
いやしの本棚
前半はフランス革命を題材に人間の悲惨を、後半は戦争によって癒されえぬ傷を抱えた個の姿を、圧倒的筆力で描ききった歴史ミステリ。戦争を体験した人にしか書けない、それをエンタテイメントとして成立させている、この凄さ。最後に見えた光は、祈り、だと思えた。流麗にして読みやすく、時に詩的な極上の筆致は言わずもがな。皆川博子という小説の女王を改めて賞賛せずにはいられない。そして伊豫田晃一氏の、精緻で象徴的な挿画が女王の小説を彩る。何という贅沢な読書!物語の至福に浸りたい読者は、読むべし。
2019/08/25
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