やがて海へと届く (講談社文庫 あ 142-1)
やがて海へと届く (講談社文庫 あ 142-1) / 感想・レビュー
さてさて
『私が頭の中で作り出した、夢のすみれだ。こうだったらいいなあと思う幻だ』という幻想の中に生きる すみれへの思いに引きずられ続ける真奈。東日本大震災から11年、次第に忘れ去られるあの災害に真正面から光を当てたこの作品。残された者としての苦しみの中に生きる人がいることを、そんな人たちの心の根底に今も強い思いがあることをこの作品を通して知ることができました。東日本大震災を当事者として体験した彩瀬さんだからこその強い説得力が物語を強く牽引するこの作品。彩瀬さんの震災に対する深い思いを強く感じた印象深い作品でした。
2022/09/05
はっせー
感動した! この本は東日本大震災で亡くなったであろう友人を4年間頭から離れられてない主人公の物語である。この本は奇数と偶数の章で主人公が違う。奇数の方は先ほど言った離れられない主人公である。偶数は誰だかわからない人が主人公である。前に向いて生きることがこんなにも大変なのが分かる。しかも私と同年代の時友人を亡くしてしまったら私もこうなるだろうと思った。この本を読み終わったら何故かいきものがかりさんの『ラストシーン』が頭に流れた。とてもこの本に合っている気がした!
2019/12/26
美紀ちゃん
震災な事を忘れない風化させないってみんな言うけど、もし自分が死んで、友達に「あんな死に方をしたかわいそうな子」って意味で忘れないみたいな、暗いことを拾い集めるような思われ方より、どうせなら一緒にいて楽しかったと思ってほしい。 別れて寂しいし、新しい友達もできてだんだん思い出さなくなるし、でも元気でやってるといいと時々思う。 二度と会えなくても、遠くにいても、友達のままでいたい。 職場の同僚や、カフェで偶然あった高校生の女の子達と話すうちに心が整理されていく様子が良かった。 ラストには光がさす。
2022/07/31
rico
あの日、行方不明になった親友のすみれ。受け止め切れない真奈。唐突に断ち切られた大切な人とのつながり。3月11日、そんな別れがどれほどたくさんあったのだろう。それでも、残った者は生きていかなければならないし、別れの言葉を交わす暇もなく旅立った者たちの魂が、安らかなることを祈ることしかできない。 すみれは歩くことが好きだった。真奈も一緒に歩いた。速くはない。でも、ここではない次の場所に行くための確かな一歩。鎮魂と希望。襲いかかる津波から逃れ、生きのびた彩瀬さんだから書けた物語だと思う。祈り、そして未来へ。
2019/03/14
chiru
思い出の中で立ち止まり、進めずにいる心をゆっくり溶かしていく喪失と再生の物語。3.11 という特別な1日が巡るたび、無意識に剥がしてしまう瘡蓋みたいな「心の傷」。どんなに時が過ぎても、喪失は他の何かでは埋まらない。『忘れる』という罪悪感。出口のない哀しみ。生きていても死んでしまっても、必ずたどり着く場所。わたしもいつかそこに向かう。そう悟ると心に落ち着きが生まれた。文字で綴る言葉が小説に息を吹き込み、喪失の苦しみに寄り添ってくれる。津波から逃れ生きのびた彩瀬さんだから書けた物語。祈り、そして未来へ。★4
2022/03/19
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