出雲神話論
出雲神話論 / 感想・レビュー
さつき
600ページ超えの大作。古事記に描かれる出雲神話の世界にどっぷり浸りました。まず驚いたのは広く使われている「国譲り神話」という言葉の初出がおそらく1926年(大正十五年)であること。「国ゆづり」という本来は帝の譲位を表す言葉を、意図を持って出雲制圧神話に当てはめた人がいたのだと思うと愕然としますし、何の疑問も持たずにその言葉を使っていたことが胸に重く感じます。また以前から疑問に感じていたアマテラスとスサノヲのウケヒの場面。なぜ前提条件が示されないのかと思っていましたが長年の疑問が解けました。
2023/02/07
南北
600ページを超える大作で読み応えがあった。古事記では神代の巻の3分の1の分量を占めながら、日本書紀ではほとんど語られていない出雲神話について論考している。「国譲り神話」は単に出雲を譲る話ではなく、日本海の支配権を含めたものだとする見解やカムムスヒ(カミムスヒ)の神は女神であるとする考えなど興味深い内容がある一方で、高天原を天上界にあるとしたり、北東アジアの神話との関連性を指摘するところなど同意しかねる部分もあった。とはいえ考古学や歴史学など関連する分野での研究につながることが期待できる点も多く見られた。
2023/05/07
わたなべよしお
面白かったし、三浦先生の説には概ね、賛成できるのだけれど、こういう細部にわたる論証だと、考古学の弱点がでてしまう。明確な根拠がないものを積み上げて高層ビルを建築しているので、少なくても私に、よく調べたら紙製の柱が多く含まれているのではと、疑ってしまう。現段階では誰にも真実が分からないものを皆でああだこうだと感覚で論議している状態だよね。まぁ、個人的には出雲神話が100%創作だとは思ったことなかったので、僕も感覚的には三浦派ではあるけれど、科学的な検証には耐えないよね、どっちにしても。
2022/03/04
にしの
古事記・日本書紀・出雲風土記、また出雲国造神賀詞などにおける記述の差異から、本来の神話の形を読み解こうとしている著作。中央集権的国家成立前、つまりヤマト政権成立前の日本の姿、出雲・紀伊を中心とした豊穣な日本海ネットワークの痕跡を、神話や現存する寺社・祭祀を通して見出している。古事記がもつ物語としての魅力と、その日本書紀等での改変の裏に隠された政治的・権力的事情が刺激的でグイグイ読むことができた。日本神話がどうも断裂的な感じがするのは、様々な地方・時空の伝承を貼り合わせて作られているからなのだとわかった。
2024/11/30
hasegawa noboru
先日たまたま、沖ノ島出土の国宝のガラス製品が5~7世紀のメポタミア由来のものと判明したとの小さな新聞記事を目にした。弥生時代後半から古墳時代にかけて、ヤマト王権によって統一されていく以前の日本列島に、それにまつろはぬ民たちの、出雲を中心として北陸、北九州、朝鮮半島と海を通じてつながる広大な文化圏が存在したのではと夢想すると楽しい。出雲神話論の集大成、筆者渾身の大冊だ。古事記神話を徹底的に読み込み、詳細極まる分析を通じて従来の通説を俎上に挙げ、批判、打ち崩し、多くの新説を提示する。門外漢にもスリリング。
2020/03/06
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