形を読む 生物の形態をめぐって (講談社学術文庫 2600)
形を読む 生物の形態をめぐって (講談社学術文庫 2600) / 感想・レビュー
ともブン
バカの壁、死の壁から巡って養老孟司さんの本職に触れたこの書へ。先の2冊は口述筆記のスタイルで分かりやすく読めたが、流石にこちらは専門性が高く、かつ研究への熱意をもろにぶつけて書かれたものだから難解な箇所が多かった。「情念論」で人体は自動機械だと言っていたデカルトを思い出しながら、それでも生物は工業製品のような画一的なものでは全くなくて、例えばヒトの大血管の有り様が何パターンもあるように多様性があり、他の生物と類似したり、進化をし形態や機能を変えていくなど、単純なものではないことを改めて感じた。
2023/04/10
Gokkey
恐らく20年程前に培風館から出版されていた頃に一度読んで以来の再読。今やすっかり文化人となった養老氏がまだ学者だった頃の著作。東大の解剖学教室は西成甫や三木茂夫に代表されるドイツ観念論的な形態学者をも生み出す懐の深さを持っており、氏もその影響を受けている事が本書の表紙(ヘッケルの作図)からも垣間見える。形を「読む」とは、形の「意味を探る」事であり、その視点をどこに置くかによって進化的、機能的な様々な解釈が可能になる。形態学の講釈であるが、バカの壁を生み出す科学哲学的論考まで織り交ぜた内容は今読んでも秀逸。
2020/05/25
shimashimaon
1986年刊行2020年文庫化。まず初めに表紙の絵に惹かれます。プリニウスを想起して読みたくなります。kindleで生物関連の似たようなタッチの絵が表紙になっている本が頻繁にオススメに挙がるので気になっています。形態に備わる機能や進化の過程の説明は「頭の中の現象」で完全に客観的ではあり得ず、形態の意味というのは偶然の産物。その意味を扱う観点を4つに分類して説明するという内容です。図や写真と共に様々な学説を説明していますが、専門的で難しいです。私は「進化的な観点」の内、ルイス・ボルクの学説に惹かれました。
2023/03/04
さちめりー
まずヘッケルの生物画を使用した表紙が美しい。養老先生がアラフォーの頃から考えていたことを50歳前頃に執筆した初めての書き下ろし本。ご自身が向き合ってきた「解剖学」について語り、「形態学」に話題が波及していく。今でもたいして意見は変わっていないという。生物学で履修中の「相同」や「相似」というワードが登場してくる。専門的な事例を交えた話題が多く論文的なので非学な自分が一回通読しただけでは咀嚼しきれない。形態は「そうならざるを得ずして、そうなっている」。
2021/06/30
かす実
養老孟司が思想家みたいになる前の、研究者らしい著作。既に証明された事実と、まだわかっていないこと、著者の主観的な推測などが差異なく並列され、様々な思考の間を揺れ動くような文体。科学的な内容を扱うには珍しい。断片的にわかるようだっったり、わからなかったり。ユクスキュルの環世界を同時に読んでいるのだが、ところどころ繋がる部分があった。「自然科学は対象を客観的に扱っているというフリをしているが、結局はその意味や解釈の部分に人間の主観が混ざり込み、無視することができない」という点に著者は魅力を感じているようだった
2024/09/22
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