村上春樹の世界 (講談社文芸文庫 かP 6)
村上春樹の世界 (講談社文芸文庫 かP 6) / 感想・レビュー
ころこ
加藤は大学に勤めていたが、研究ではなく、あくまでも批評家としての村上への興味を終生持ち続けていた。前半は批評家として、後半は教育者としての文章であり、後半の方が構図がはっきりしていて読み易いが、暗がりを進むような前半の方が加藤らしいし、前半の積み重ねがあっての後半の論である。『行く者と行かれる者の連帯』いったい『スプートニク』の何を読んでいたのだろうかと気付かされる。すみれ=花、にんじん=根の対立をライカ犬と普通の犬にも置き換える。自分は「花」ではなく、「根」の方に付くというコミットメントを描いている。『
2023/03/18
かば
たとえば『ねじまき鳥クロニクル』『1Q84』はそれぞれ全2巻で完結かと思わせておきながら忘れた頃に続刊を刊行したのは何故なのか、といったような少々変わった視点から出発しつつ、村上春樹世界の深部までメスを切り込む論評の進め方に舌を巻く。特に「『風の歌を聴け』は、否定から肯定への物語である」と評する「夏の十九日間」は素晴らしかった。文庫のくせに2200円もしたが、十分にそれに値する内容であった。
2020/06/03
amanon
いわゆるハルキストではないとはいえ、それなりに熱心な村上春樹読者だ自認してきたが、それでも本書でなされる読みの深さには少なからず理解しがたいものを感じたというのが正直なところ。とりわけ『世界の終わり~』を論じた章は、作品そのものの記憶が不確かなこともあって、読み通すのにかなり苦労した。ただ、安部公房の『砂の女』を引き合いに出して論じているのが意外であるのと同時に新鮮だった。また、また、『ねじまき鳥~』が後で書き足されたいう事実に驚き。続編が書き足されずに完結した『ねじまき鳥~』は想像しにくいけれど。
2023/07/30
山ろく
登場人物の行動や台詞がしっくりこないときはあってもそこは実生活も同じで、こいつ何考えてんだろう自分ならそんなことしないな今後付き合うことはないかもな、となるところを、それで終わらないのが文芸批評の凄さだ。作品論が7編と書評が5編。違和感やわからなさを糸口に、一旦は完結した作品の「建て増し」や下敷きとなった短編と長編との読み比べを通して、「なぜこう書いたのか」「何が書きたかったのか」を推理していく。例えば「世界の終わり-」では僕と影との会話や行動など。読解による新鮮な意味づけはスポーツ解説と面白さで通じる。
2020/07/14
なつのおすすめあにめ
評論家や本人インタビューによれば、村上春樹が「デタッチメント」から「コミットメント」へ移行した作品は『アンダーグラウンド』で、きっかけは地下鉄サリン事件とされている。しかし『村上春樹は、むずかしい 』を読むと『中国行きのスロウ・ボート』収録の初期短編に、すでに「コミットメント」の兆しが。『羊をめぐる冒険』から物語の構造を意識した長編を書く、そんな定説のせいで『風の歌を聴け』 からすでに2つの世界を描く構造だと気がつけなかったし、鼠が最初から死んでいる?この夏の、新しい短編と、その次の長編が待ち遠しいです。
2020/06/14
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