男 (講談社文芸文庫 こF 11)
男 (講談社文芸文庫 こF 11) / 感想・レビュー
愛玉子
昭和三十年代の『婦人公論』の連載を中心に編まれた、いわば「お仕事拝見ルポ」である。「働いている男ほど、男性の好ましさを発散させているものはない」鮭を漁る人、機関車の運転士、医師のひたむきな姿。製鉄所では鉄の火に圧倒され、下水道では下水にゆらめく黄金色の一塊(!)に哀感を寄せ、厨芥集めのきつい作業を目の当たりにして動揺したりしながらも敬意を持ってじっくり観察することは忘れない。そこで見たもの、感じたことを細やかに描きだす凛とした文章が読んでいて心地良い。オリムピックを控えた東京の猥雑な雰囲気も興味深かった。
2021/09/26
amanon
本書の時代から、職業観や各職業を巡る環境、そして男女間の職業の差がかなり軽減された現在を思うと、何とも言えない感慨を覚える。扱われている職業の大半は、今も女性には難しいであろうとされるものだとはいえ、著者の格現場に携わる男性への視線は、やはり時代的な要素が強いと思わざるをえない。でもだからこその読みどころが少なからずあるというのも事実。個人的にはオリンピック前の下水道がまだ整っていなかった東京の事情はかなり驚かされた。また、少年院の教官が収監された少年達に向ける愛情と複雑な思いは時代を経ても胸を打つ。
2020/10/18
フリウリ
昭和30年代の主婦雑誌における、職場に出向いて働く男たちを取材する、という体験型ルポルタージュです。(おそらく)幸田文が苦手とする「男」に焦点を当てているのは、おもしろい編集方針です。取材先はさまざまなのですが、なにか同じ色合いの布を、次々と広げられているような気持ちになりました。幸田文の上手すぎる文章に酔えない人には、なかなか厳しいなと…。ごめんなさい。5
2023/08/20
mrymy_k
働く男、というものをはじめて意識したのは、10代の終わりごろだったと思う。「男の人は仕事をしているときがいちばん格好いい。"奥さん"というものの性質として、自分のいちばん格好いいと思いたい人の、いちばん格好いい姿を見られないのだ。可哀想なことに。」と、生意気なことを思っていた。本書に収録されているのは主に昭和30年代に書かれたもので、働く男に対して、女には出来ない仕事だという、尊敬と愛情が込められている。今の時代には、なかなか生まれない文章だと思うが、身も心もしっかり女の私は、ひっそりと共感して楽しんだ。
2021/07/20
ようこ
やっぱり“男らしい”魅力ってあると思う。目の前の事実からさらに深い背景を慮るような、著者の人柄まで感じられるようなルポだった。こういう視点をもちたいと思った。テンポよく読みやすい文章で、もっと読みたくなった。
2021/03/31
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