偶然の聖地 (講談社文庫 み 68-2)
偶然の聖地 (講談社文庫 み 68-2) / 感想・レビュー
Shun
SF的世界観で描かれる幻の聖地を目指す4組のトラベラーたちの物語。地図に載らないイシュクト山には奇妙な逸話が多く、曰く何かが叶う代わりに大事なものを失うといった具合。奇妙な話だがそもそもこの物語はまるでプログラムによって作られた世界であるようなバグが発生したりVRを想像すると分かり易い。そして本作の最も独創的な点は300項目を超える著者自身による注釈だろう。ほぼ全紙面に著者のコメントが挿入され、これら用語解説やらネタ解説等が読書の旅をより一層賑やかにしてくれます。一度本書を開いて見ることを強くお薦めする。
2021/11/08
塩崎ツトム
まったく芽が出ない(というわけでもないけど)アマチュア小説家を9年近くやっているが、小説の作業がプログラミングに思えたことはない。自分にプログラミングの知識が欠片もない為であり、落ち物パズルのように思えることはある。どうすればフラグが連鎖して収束するか考えたり、フラグ回収の目途が立たずガメオベラになったりする。ただ、作品を自惚れにまみれた注釈だらけにしたいという願望は、小説を書く人間ならだれでも持っている。書くよりも、書かずに切り捨てることの方がちょいとばかし多いのだ。
2021/09/27
田氏
300を超える註釈(*1)が欄外に犇めく(*2)本書が文庫化されると聞いたときは、正気か?と思った。奇書(*3)や実験小説のカテゴリに一歩踏み込み、さらにギークな単語や概念をこれでもかと詰め込み、バックパッカー(*4)としてのエッセイやメタフィクションを行き来し、こんなにもわちゃわちゃしているのに、作品世界を構成する概念群がきっちり統一されており、それでいて最終的にしっかりエンタメなのが恐ろしい(*5)。初読時には読み損ねていたけど、第一部の18話がこんなに重要だったとは。読み損ねる以前に、そもそも読めて
2023/07/27
びっぐすとん
【私的冬季課題図書 延長戦】【冬季課題図書】読み終わったので延長戦突入。うへぇ、正月でネジがユルユルの頭にはチンプンカンブンだった。まずプログラミングのプの字もわからない私にはほとんど外国語の本を読んでいるかのようだ。混沌としていて、注釈まみれで(似鳥鶏さんの本みたい)、もう頭の中がバグだらけ・・・。本音を言えばあまり楽しめなかった。ただ登場人物は皆魅力的だったので、違う形でまた会えたら楽しそう。帰国子女でバックパッカーでワセダ卒でプログラマー勤務経験ありって、宮内さん何者?
2022/01/02
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漸く秋らしくなってきた。いつから秋はこんなにも短くなってしまったのだろう。短いと言えば、秋のあとに訪れる一時的な短い春を旅春と呼ぶ。時空がかかる病でありバグであり、ならば世界をデバッグする世界医だっているらしい。「わたし」の一人称で語られる物語は、さらに別の誰かの「わたし」によって語られる。何が起きて何が起きていないのか分からないまま、彼らは地図になく、検索でも見つからないイシュクト山を目指す。偶然の聖地を目指す紀行エッセイであり、物語であり旅なんだね。これ好き。
2023/10/06
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