ハロー・ワールド (講談社文庫 ふ 89-1)
ハロー・ワールド (講談社文庫 ふ 89-1) / 感想・レビュー
ひろし
IT社会、ネット社会で自由を守るため奮闘するIT開発者の話。ジャンルはSFになるのだろうが今起きていておかしくない話が描かれている。語りとしてはITの説明のボリュームが多いが、根底に流れる主張は、IT社会は自由でなければならない、またそれが互いに見ず知らずの誰かと誰かの力を合わせることで実現すべきであるし、必ず実現できる、というもの。話の舞台がアジアや中国というのも現代的。説明口調に終始せず、話が思わぬ方向に展開し、その状況に主人公が柔軟に対処しながら主義主張を曲げず解決していくところに爽快感を覚える。
2023/06/15
タカギ
知らない世界のことを教えてくれる本や、見たことのない景色を見せてくれる本が好きだ。この本はその点で完璧。そしてシャレオツ。IT=カッコいいというイメージはさすがに古臭いと思うけど、本当にカッコいいから仕方がない。主人公のエンジニア・文椎が爽やかで良い。ソフトウェア会社に勤務していた著者の私小説に近いものがあるらしい。久しぶりに全く違う世界の扉を開く本に出会えてうれしい。
2021/07/13
シキモリ
白髪を蓄えた著者の風貌が記憶に新しいので、私小説的なフィクションと言われると妙に納得する。作中で取り扱う題材はアプリにGPS、ドローンにSNS、そして極め付けが仮想通貨。ITにとことん疎い私には現存技術と創作との境界線を判別出来ないが、知識と経験で苦難を乗り切る文椎の姿には爽快感を覚える。相変わらずキャラクターの掘り下げが浅い印象は否めないけれど、これも著者の作風だとようやく腑に落ちた気がする。こと今作においては、IT社会を巡る問題、課題、そして著者の描く展望そのものが作品を司る主人公格だった様に思えた。
2021/03/14
塩崎ツトム
現代のソフトエンジニアリング・ノマドたちの物語。金融資本主義、新自由主義の勃興で社会全体が閉そく感に包まれる中で、元気なところは元気である。一方でここでも国家の統制か、無秩序な投機かの二択を迫られる局面が続く。それでも階級と国境を越えて結びつくエンジニアたちは戦う。ネットは人類を進歩させたか? ヒトによるとしか言いようがない。中には陰謀論と無秩序な投機に身を亡ぼすものもあるが、知を求めるものには、与えられる。
2021/04/21
KUMAPON
なんとも現代的なハードボイルド小説。いまどきのヒーローは銃と筋肉ではなく、MacBookとプログラミングスキルで世界を救うのだな。テクノロジーに対して健全な希望と道徳観を持っている人たちの会話は読んでいて気持ちよかった(よく聞くテック系ポッドキャストを思い出した)。出版時点では近未来として描かれている2020年が既に訪れている今、ありえなかったもうひとつの世界のお話ではあるのだが、在宅ワーク続きで人恋しくなっている主人公の気持ちにはコロナ禍の今だからこそ深く共感できる部分もある。とにかく面白かった。
2021/08/15
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