盤上の敵 新装版 (講談社文庫 き 45-4)
盤上の敵 新装版 (講談社文庫 き 45-4) / 感想・レビュー
ナルピーチ
各パートをチェスの盤面に置き換え、序盤・中盤・終盤と局面ごとに分けられた構成になってはいるが、内容は全て一つの事件のことを指している。黒のキング、そして白のキングとクイーンに例えられた男女の語りが物語を複雑なものへと変えていく…。噂に違わぬ傑作ミステリーであり、読後に受けた衝撃が計り知れない見事なストーリー。伏線が徐々に回収されて最後に明らかになる真相がとても美しい伏線回収のミステリー。騙されたことが清々しいような、それでいてどこか切ない余韻を残すラストに、いつの間にかしっかりチェックメイトされていた。
2023/05/05
みゆ
このお話は…… キツイ"(-""-)" ミステリ的にどうこうよりも、過去エピソードがキツイ。冒頭の前書きに「本によって慰めを得たり、心を休めたいという方にはつらいものになります。そういう方にはこの本は不向きです」と断り書きがあったのですが、まさか北村さんの本でここまでとは思いませんでした。お気を付けください。
2023/05/17
geshi
帯のハードルが高すぎて超えられなかったな。緊迫した状況だけど純一の心中が分からず独自に動くから、感情移入しにくくサスペンスが高まらない。間に挟まる友貴子のパートが必要なのはわかるんだけどテンポを崩してしまう。20年近く前の作品で男女の強さ論や理解できない悪意について語っているのは先見性ある。チェスをモチーフにしているんだから、もっと盤上の戦い感を強めて欲しかった。ラストに明かされる真実には納得するし、目的のすり替えのミスリードが巧みに仕組まれている。
2021/09/21
カノコ
自宅に立て籠もった殺人犯から妻を救うため、末永は犯人と交渉を始める。ミステリとしては異例の前書きの通り、この作品には目的のない透明な悪意が人の形になって現れる。それは不可避のギミックのようで、どうしようもなさに心が冷えた。蹂躙する者とされる者の関係、それが反転する構造など、タイトルの通りこれは盤上での戦いであり、その意味でこの作品は寓話だ。しかしミステリとして優れているのは間違いなく、丁寧な文章の中に潜んだ伏線や隙のない描写の数々に舌を巻く。これは悪意の物語だが、終章の美しさに著者の優しさを思うのだ。
2024/05/09
ひろ
強盗犯を黒のキング、逃げ込んだ先の家主を白のキングとして、その攻防戦を描く。囚われた妻を救うために考え出した夫が奇策とは。単純に対立する構造でなく、何やら思惑が見え隠れし、気になって読む手が逸る。スリリングな戦いの合間には妻の回想が描かれる。はじめはスピードが落ちる印象を受けたものの、終盤に向かうに連れてストーリーの本筋へと合流していく。仕掛けられていた伏線が回収され、提示された情報には素直に驚かされた。これが初の北村薫作品だったのだが、異色作とのことなので、他も読んでみたい。
2024/05/11
感想・レビューをもっと見る