深い河 新装版 (講談社文庫 え 1-48)
深い河 新装版 (講談社文庫 え 1-48) / 感想・レビュー
アキ
遠藤周作70歳の時に刊行された文庫本の新装版。表紙の彫刻は、スギサキマサノリ「祈る人」。著者の晩年に、宗教的なものとは何か、祈るとはどういう行為かについて書かれた小説。リヨンに留学し、キリスト教への違和感と異端な考えからインドへ行った神父の大津は、著者と重なる。大学時代に同級生で、彼を翻弄した過去を持つ成瀬美津子を軸に、妻に先立たれ「必ず生まれ変わるから、わたしを見つけて」と言われた磯辺の人生を冒頭に置いて、ミステリー仕立てに、ガンジス河の最後に収斂していく。併せて死後刊行された「深い河日記」も読んだ。
2023/09/17
molysk
自分の生まれ変わりを探してほしい。死別した妻の願いに導かれた初老の男。過去の自らの放埓に、償いを求める女。それぞれの思いを抱いて、深い河ガンジスに人は集う。富めるも貧しきも、来世を信じて。そして、河のほとりで行き倒れた人を背負う男を、女は知っていた――。転生は東洋的思想で、本来はキリスト教とは相容れない。日本におけるキリスト教を終生の課題とした遠藤は、ガンジスで輪廻を信じる人と、イエスの復活を信じた弟子たちに、通じるものを感じたのではないか。現世における罪は清められて、新しい生に生まれ変わるのだと。
2023/06/18
yomineko
聖なるガンジス河。死者の生まれ変わりが信じられているインドで妻の生まれ変わりを探す磯辺。大津に酷い目に遭わされたという美津子だが彼女は彼を蔑み弄ぶ。死者の画像を撮ろうとする三條に怒りを覚える。インディラ・ガンジー首相が暗殺された1984年の話。
2023/04/14
はっせー
読書会の課題本であったため読んでみた。言葉にするのがこんなにも難しいのかと痛感した作品であった!過去に傷を抱えた登場人物たちがインドへ旅行する話。話の中には宗教論なども含まれているためなかなか難しい。そして抽象度が高いためなおさら著者が伝えたいことが見つけにくい。一言でこういう作品だと形容することができない。悩ましい作品である。だが言葉にできない先には深くて豊潤な世界がある気がしてならない。再読したい作品である。
2024/06/23
さぜん
様々な思いを抱え、インドツアーに参加する人々の人生を振り返りつつ「生きる」ことを読者に問う。20年以上も前に刊行された作品だが信仰や死生観への明確な解答は未だない。母なる河ガンジスは人生の喜びも辛苦も包み込み流れていく。そうした存在を持っことは、人生にどう影響を与えるのだろう。作者が感じるキリスト教と日本人の距離感は信仰に留まらず、生きていく上で悩み惑う時に己の心と対峙し「考える」ことの大切さを説いている気がする。流されず、惑わず、見えざる者に対する畏怖を持ちつつこれからも人生を歩んでいきたいと思った。
2022/09/26
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