線は、僕を描く (講談社文庫 と 60-1)
線は、僕を描く (講談社文庫 と 60-1) / 感想・レビュー
しんごろ
本格的な水墨画を題材にした物語だと思ってたが、巨匠の湖山に見いだされた青山霜介の水墨画を通しての再生物語。霜介は湖山の秘蔵っ子と言ってもいい。水墨画を知らないゼロからのスタートにも関わらず、霜介の過去と向き合いながら、真摯に挑戦していく姿は孤高ながらも気高く感じた。人に恵まれ、素直な心、集中力、逃げない姿勢が彼の水墨画の素質が開いたのでないか。少しずつ過去から脱出してほしい。たかが線されど線。線に生命を吹き込むとどうなるのか見てみたい。この物語自体が濃淡で明暗があり水墨画のようだ。いつまでも余韻が残る。
2022/05/11
パトラッシュ
単行本では見落としていたが、意外な掘り出し物だった。事故で両親を失って人生が灰色と化した青年霜介が、水墨画の名人に邂逅して才能を見い出され色を取り戻していく。何より白い紙に墨一色だけで様々な絵を描き出す作業の描写が際立っており、目の前で出来上がるのを見えてくるようだ。この描写力に支えられて、その名の通り凍りついて生きているだけだった霜介が師や先輩や友人に出会い、人として成長していく姿が鮮やかに浮かび上がる。悪も悲劇も泥まみれの苦闘も出てこないが、逆にストレートな教養小説として一気に読ませる力になっている。
2024/01/29
mae.dat
枯れた芸術。既存には無い表現を模索し、打破するのがアートの一側面と思うのですけど。水墨画は、中世中国にて完成を極めてしまっているのかな。「枯れる」と言うとネガティブな印象を受けるかもですが、コンピュータの世界では「使い込まれて、バグも出し切って、安定状態になる」って意味も持つの。そう言う領域なのかと。真髄を極めるには、技術だけでは無いんやね。自身のノウハウを継承させるに値する後継者を見出す湖山の慧眼が凄い。そして両親を亡くして喪失感に苛まれる霜介が、回帰をは図るのに必須だったんですね。没頭出来るもの。
2024/02/13
はっせー
「まじめは悪いことではない。だが自然ではない」主人公青山くんの師匠の篠田湖山先生の言葉である。この言葉が心にずっと残っている。この言葉が表していることはおそらく人生そのものであろう。どんな人もまじめで生きていこうとして本来の自分と向き合えていない。そんな人に刺さるのかなと思った。この本は主人公青山くんがバイト先で出逢ったのが水墨画の巨匠篠田湖山先生。湖山先生は青山くんを内弟子にして育てることを決意して育てていく。そのやり方が心と向き合うことであった。描くことこそ心をさらけ出すことだなと思った作品だった!
2022/01/23
bookkeeper
★★★★★ 初読。不慮の事故で両親を失って以来、長らく心の中に囚われていた霜介。ふとしたきっかけで水墨画の巨匠に師事して深い世界を知ることになる…。 墨の濃淡で森羅万象を描き出す。あまり知識のなかった水墨画の魅力をこれ程訴えかけてくれるお話しとは。真っ白な紙に一筆目を置く緊張感、技巧の先にあるもの、そして主人公の再生。悪人が一人もおらず、千瑛との関係性も清々しい。全然嫌な雑味が無い感じ。揮毫会や作品展の高揚感も心地良い。凄くオススメだよ! 「できることが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ」
2023/02/14
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