すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集
すべての月、すべての年 ルシア・ベルリン作品集 / 感想・レビュー
やいっち
『掃除婦のための手引き書』も素晴らしかったが、本作品集も存分に楽しめた。訳の良さも預かって大きいのだろう。 「ベルリン( 1936年 – 2004年)は米国アラスカ州ジュノーで生まれ、幼少時は鉱山技師の父親の仕事のために各地を転居した。一家はアイダホ州、モンタナ州、アリゾナ州、そしてチリの鉱山キャンプで暮らし、ベルリンはそれらの地で青春時代を過ごした。成人してからはニューメキシコ州、メキシコ、カリフォルニア州、そしてコロラド州で暮らした」(Wikipedia参照)という。
2022/06/12
buchipanda3
様々な国や地域を巡り、様々な職業で生活した著者。その間に彼女が経験したこと、見つめたこと、そしてやるせない気持ちになったこと、それでも自分のやるべきことをやり続けた気概がこの中に詰まっていたと思う。今作では目線が他人に向けられた話が印象的。堕胎の裏病院の出来事、緊急救命室の会話、同僚のルース、英語が話せないアメリア。著者は誤魔化さず描く。同情を誘うのではなく、どんなことも起こりうる社会の中で、よくも悪くも深い感情を持つ人間の血の通った姿をつぶさに描く。彼女が見い出す完全ではない愛すべき人間味が心に残った。
2022/05/30
seacalf
前作同様、今回も凄くいい。ルシア・ベルリンの書く本は読むだけでフッと瞬時に彼女の世界に浸ることが出来る。物語自体はかなり悲惨だったりほろ苦い人生を感じさせたりするのに何故だか不思議と心地良さを感じる空気感がある。彼女の紡ぐ言葉を聞いていると世界中で足を踏ん張って生きている人達のすぐ傍にいるような気分になる。エッジの効いた文章、一風変わった幼児期の体験、破滅的だが喜びに溢れる日々。読み処が多く秋の夜長に相応しい。幾つかは雰囲気を味わうだけでも満足、幾つかは必ず再読したくなる。まだ未訳もあるので今後も楽しみ。
2022/11/01
kaoru
ルシア・ベルリンの邦訳2冊目。多彩な生き方をした彼女の人生を反映する19の短編。表題作はメキシコの海の描写が鮮やかで、私事ながら25年前のカンクンへの旅行が脳裏に甦った。『虎に噛まれて』は中絶を請け負う医師、『エル・ティム』は不良の天才等世の中の正道を踏み外した人間が多く描かれる。病院勤務を基にした『ミヒート』はメキシコ娘アメリアの酷い体験が看護師の「わたし」の視点から語られる事で一層胸に迫る。ドラッグの運び屋を強いられる妊婦『カルメン』、癌に冒された妹を描く『哀しみ』。明るいシチュエーションの物語は→
2022/05/21
アン
見知らぬ誰かの人生、その一齣に心が騒いでやるせ無くて、抱きしめたくて。失意の雨が降っても木漏れ日のように優しく、震える足元を照らしてくれたらと…。離婚し赤ん坊を育てる私の心の迷いと決意、寄り添うベラ・リンが心強い「虎に嚙まれて」。ダイバーとの触れ合いを通し再生する魂、神秘的な海の息吹に包まれて「すべての月、すべての年」。息子の親友と恋人になる母親と弁護士の2人の視点が絡み、ラストがひときわ鮮やかな「笑ってみせてよ」が好き。ひび割れそうな心でも愛の欠片を求めて、ふと逢いたくなる19の物語。
2022/05/28
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