遊廓と日本人 (講談社現代新書 2638)
遊廓と日本人 (講談社現代新書 2638) / 感想・レビュー
ミカママ
【読メ遊廓部・課題本】いやぁ、おもしろかった。ジェンダー論、人権問題からの遊廓。遊女の成り立ちや一年を通しての彼女らの生活についても。1770年代に蔦屋重三郎が始めた本屋が遊廓文化に及ぼした影響。え、これってあの蔦屋の元祖?読みどころは終章。ジェンダー問題の現状。2021年、日本の非正規雇用者の約7割は女性だという。もちろん前借金で縛られた遊女たちと現代の非正規雇用者を括るものではないが、根底に流れるものを無視はできない。本当の意味で対等になるにはあと何十年、いや何百年必要なのか。
2022/01/23
パトラッシュ
女性学者が遊廓を取り上げるのならジェンダーや貧困問題を論じるかと思ったが、少なくとも現代の基準で江戸時代を一方的に裁断してはいない。吉原遊廓の成立を「色好み」など日本文化の一部と捉え、それを継承発展させてきた場として位置付ける。狭い地域に女たちの集住する別世界が生まれた結果、吉原を中心にファッションや文学、浮世絵といった文化芸能の中心となった事情を浮き彫りにする。ただ、それらは借金で縛られた女たちの売春が前提のため、今日まで残る女性差別や人権無視の根源となった視点も忘れない。学問的で冷静な遊廓論といえる。
2022/03/22
k5
「遊廓は二度とこの世に出現すべきではなく、造ることができない場所であり制度である」という、人権的にきわめて真っ当な話から始まっていて、不埒な私は徹頭徹尾真っ当なこと言われたらどうしよう、とたじろいだのですが、遊廓という場所と文化についてこれ以上はないくらい鮮やかなガイドブックで、面白かったです。その上、マリア・ルス号事件のくだりから、人権のところの前振りも回収されます。出版メディアと芸能界としての吉原の関係性や、男の顔が戦国時代のヒゲ面から江戸時代は男女の境界が曖昧になるなど、重要な指摘がてんこもりです。
2021/11/21
けぴ
遊女はそもそも芸能者で、遊廓と芸能は一体のもの。そこから性に関わる部分を切り離して成立したのが歌舞伎。また初期の遊女は能を舞い三味線を弾いたが、これは踊り子、芸者へと引き継がれる。性の部分が残った遊女は前借金で拘束されている女性。借金を返し終わるまで遊廓に拘束される。『みをつくし料理帖』で幼馴染である野江が遊女となっているのを知り借金を返すために頑張る澪を思い出す。現代のジェンダー問題にまで話を繋げる論理は無理矢理感があったが面白い本でした。
2022/04/30
活字の旅遊人
田中優子先生の著作、実は初読み。なるほど、鋭さと優しさがしっかり同居された方なのだなあ、と納得した。和服で登場する女性総長、ということでちょっと色眼鏡で見ていた自分を恥じてしまう。今では廃れてしまった文化を思うと、寂しい気もするが、吉原の文化はその頃に新しく作ったものでもある。江戸時代の心中ものは今まで避けてきていたが、これを機に読みたい。樋口一葉「たけくらべ」は文章が難しく、また文化的にも馴染めずにかつて挫折したが、苦労してでも読んだ方がよさそうだと思った。あとは「マリア・ルス号事件」も調べてみたい。
2022/06/17
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