光をえがく人 (講談社文庫 し 155-1)
光をえがく人 (講談社文庫 し 155-1) / 感想・レビュー
ケンイチミズバ
私にも似たような経験があります。仕事で初めてのイギリスで。英国の自動車産業が没落し、欧州で日本車の需要が大きく伸びた時期です。日本人が作ったものは買わない。あなたが若者でよかった。戦争を起こした世代なら口もききたくないと言われました。ホテルのカフェでいきなり初対面の老人にです。戦時中に日本軍の捕虜になった体験をお持ちでした。ハングルで書かれたアドレス帳を拾い、持ち主に届けたい思いで韓国を訪ねた若者の体験がなかなか考えさせられます。当時20代の私は、複雑な思いになったはずですが、すぐに忘れてしまいました。
2023/07/19
はっせー
選書本。あー!めっちゃ良かった!何だろう。原田マハさんのアートミステリーを初めて読んだときの衝撃と同じ感覚があった。本書は現代アートにまつわる短編集となっている。そしてコンセプトが現代アート×アイデンティティーだと思う。話のどれもが面白いだけではなくアートの知識もしっかり学ぶことが出来る。また装丁もめっちゃ綺麗でブックカバー無しで読むといいかもしれない。本書を読むまで一色さゆりさんのことを知らなかったが、今後追っていきたいと感じた!
2024/08/18
よっち
東アジアのアートが大切な人を繋いでゆく世界の「今」を感じさせる短編集。ハングルで書き込まれたアドレス帳の持ち主を探す韓国への女性二人旅、伝統の御所人形を作り続ける人形師とフィリピン人留学生の出会い、香港の現代水墨画家とワケあり地元実業家夫人の再会、記憶をなくして海外から帰国した有名な写真家の父の生涯、ミャンマー料理店の店主に聞く自国の政治犯についての話。辛い時や悲しい時に芸術を通じて出会った人とのかけがえのない縁があって、それぞれの国が抱える複雑な事情も絡めながら綴られる大切な想いが印象的な物語でしたね。
2023/06/15
ゆみのすけ
とてもよかった!全5編収録。油絵、写真、人形師、水墨画等のアート作品と韓国、フィリピン、モンゴル、ミャンマー等の海外が繋がり、そこに歴史、社会、国際問題も絡み合ってくる。好きなのはハングルで書かれたアドレス帳を持ち主に返すために韓国へ行った「ハングルを追って」。日本と韓国、在日韓国人と韓国人、在日韓国人と日本人。彼らの間で交わされる何気ない会話に小さな棘を感じ、意識化に潜む見えない線を考えさせられた。ミャンマー料理店の店主が過去に反政府運動に関わり投獄された出来事を語った「光をえがく人」もすばらしかった。
2024/08/31
エドワード
アートをめぐる短編集だが各々が実に深い。在日三世のアーティストが偶然拾った韓国人の住所録から、友人とソウルを旅する物語。どんなアートが出来るのか?時折緊迫しながらも、優しさが垣間見えて好きだ。魂を削るように人形を作る京都の人形師。中国本土と対立を深める香港での、山水画家とコレクターの妻の邂逅。立場は異なるが、心は通じる。家族より芸術を選んだ写真家にも、山ほどの家族写真があった―これは泣ける!地方都市のミャンマー料理店の1枚の絵が、軍事政権下の監獄で描かれたとは誰も思うまい。凄まじい経緯を経て、ここにある。
2023/07/07
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