苦海・浄土・日本 石牟礼道子 もだえ神の精神 (集英社新書)
苦海・浄土・日本 石牟礼道子 もだえ神の精神 (集英社新書) / 感想・レビュー
ぐうぐう
「家」というものに疎外され、女性ゆえの矛盾や苦悩を覚えながら、しかし石牟礼道子は女性解放運動に向かわなかったのはなぜか、と田中優子は疑問を抱く。道子は言う。自我を主張することで誰かが傷つくのではないか、そうなら、女性解放運動よりも新しい共同体を作るにはどうすればいいかを考えた、と。その方向性こそが石牟礼文学の本質だと、田中は気付くのだ。そのような近代的自我の形成にはおよそ関心がなく、魂の拠点を古代の母達に置くのが道子である。(つづく)
2021/08/03
かふ
石牟礼道子の足跡を辿りなが、家という制度から水俣、さらにもだえ神の精神と解説していく。石牟礼道子というと水俣という事件ばかり思い出されるが人と自然の繋がりにおいて人間が生を営んできた思想の中に古代から伝わる自然神がある。それは獣や虫たちも人と変わらない生を営んできたという水俣の海の姿。チッソを懲らしめるというのではなく、チッソと共に悶えていくという、それは日本人の生活が物質主義によって、失われた世界を想起させるものだ。水俣が天草の乱や東日本大震災と繋がりを持ってその中に生きる人々を晒す。
2023/09/16
ネギっ子gen
「おわりに」で、著者は書く。<50年。私が石牟礼道子の言葉を心に刻んでから、それほど長い月日がたってしまった。もっと早く書けばよかった、という思いとともに、長く心にとどめておく作家がいることは、とても幸せなことだ、という思いもある>と。わたしと同年生まれの著者の、この思いに納得。そして「もっと早く書けばよかった」を、「もっと早く、しっかり読んでおけばよかった」に変換すれば、そのままわたしの存念に。出逢いには、時がある。盲亀の浮木、優曇華の花。今生での出逢いに感謝して、石牟礼文学にじっくり沈潜していたい。⇒
2021/01/24
algon
著者は日本近世史を専門とする社会学者。異なるフィールドからの石牟礼道子の分析評論を読みたい思いで借り受けた。著者は1970年から石牟礼に魅せられ、対談を経てついに評論を手掛けるに至った。「苦海浄土」はもちろんだが多くを「春の城」「不知火」などに費やして石牟礼分析に難解な部分、魂やもだえ神の紹介や分析に挑んでいる。その上で自然の中に入り生類たちとの連携を取り戻すことが現代において人間になり直すこと、それらが石牟礼の遺した我々へのメッセージだと説く。難しい部分もあったが著者も熱烈読者の一人。興を持って読めた。
2022/05/18
こかげ
田中優子さんの発言を動画などで拝見し、その理論的で的確な発言に好感を抱いた。もっと彼女の言葉を聞きたくて著書を検索したところ石牟礼道子さんに関する本書を見つけて即手に取ってみた。石牟礼さんの内に流れる世界観、時間軸を丁寧にひも解く。「この世と別世」「近代と古代」の境を自由に行き来し、しかもその魂の入れ替わりを俯瞰して眺めるもうひとつの視点を持つ彼女の特異性。『春の城』に沿って解説される「もだえ神」「闘う共同体」についてなど…とても興奮して読んだ。
2023/09/18
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