人形たちの白昼夢 (集英社文庫)
人形たちの白昼夢 (集英社文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
表紙ジャケットと挿絵として5葉の岡上淑子によるフォト・コラージュを配するセンスの良さが際立つ。ただし、今回の12の掌編は、例えば『ガーデン』が持っていた鮮烈な抒情には及ばない。残念ながらやや通俗的な領域にとどまり、そこからの跳躍が見られることはなかった。主たる発表誌が「WEB文蔵」であったせいか、あるいは読者対象を10代後半の女性たちを首座に据えたためかと思われる。したがって、当然本書を熱烈に支持する層は確実にあるだろう。小説が飛翔する可能性を持っていただけに、私には甚だ残念である。
2020/10/23
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
かなしい夢をみてた。つめたい森で音もなく踊る少女翻る青いリボン、戦争は終わらないし愛しいひとは戻らない、青い目は繰り出されて貴族の棚にガラス瓶に入れて保管されます。"おまえにはこの価値がわからない"そう言って奪い取られたものたち。雪に沈めたい。光が射しこんでまた春がきてちいさな花がたくさん咲いても、それは去年とはおなじじゃないね。思い出がふり積もってここにはなくて、たまに叫びたくなるけどたしかにここにあったもの、後悔したくない。やさしい思い出の味を口にして、またバスに乗ろう。今の場所にかえろう。
2020/09/20
mayu
静かに、美しく、時には残酷に。モノクロの風景の中に浮かび上がる鮮やかな色彩。青いリボンが、感情を失くしたかのような人形たちが象徴的に時をつないでいく。「ブッタネスカ」では、対照的なブラッディーな赤で、生と死、そこに宿る絶望と希望を紡いだら、「モンデンキント」では、月の光に包まれた金のボタンで、やわらかな初めての恋の思い出と、満たされなかった苦い記憶を振り返る。まるで白昼夢をみているように。輪郭のない、幻想の中に揺蕩うような時間に魅せられた。
2022/06/19
カノコ
青いリボンに誘われるように、ここではないどこかに連れていかれる小さな12のお話たち。美しい言葉で紡がれるショートストーリーは、崩壊の予感を感じさせつつも小箱に大切に仕舞われている気がした。物語のいくつかは、指先が触れ合うように、いくつかのモチーフを引き継ぎながら語られる。その中でも、村人たちから「ヌカラ」と呼ばれ崇められる少女の「ビースト」が中々衝撃的だった。一片の曇りもない美しさが、ある種の暴力によって蹂躙されていく様に息を飲む。"罪人"たちがある方法で世界を獲得していく「モノクローム」もいい。
2020/07/01
優希
きらめくような世界が広がる短編集でした。アンティークの宝石のような美しさがあります。残酷ながらの輝きと幻想的な空気感に魅了されました。
2023/03/21
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