マスカレード・ナイト (集英社文庫)
マスカレード・ナイト (集英社文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
シリーズ3作目だが、これまでの2作よりもいっそう「マスカレード」の度合いが強い。すなわち、今回は比喩的な意味ではなく、文字通りにホテル主催の「マスカレード」カウントダウン・パーティの最中での事件が描かれるからである。また一応は警察小説のスタイルを纏ってはいるが、リアリティは最初から捨て去って、徹底して劇場型の犯罪を展開してゆく。全体の構想はヴェルディのオペラ"Un ballo in maschera"(仮面舞踏会)に立脚し、重要なトリックの部分は映画『M.バタフライ』の趣向をとりいれるなど配材も実に巧み。
2021/09/02
Tetchy
第1作同様お仕事小説と警察小説2つの持つ旨味を見事にブレンドさせた極上のエンタメ小説に仕上がっている。ホテルを舞台にした仮面劇。それは数々の人生が交錯する社会の縮図。物語の最後に明かされる事件の真相を読むにますますその意を強くした。大ホテルは夜景が映える。その夜景は一つ一つの窓の明かり、つまり宿泊客が照らす部屋の明かりがモザイクタイルのように彩る。登場人物それぞれがそれらのピースとなって『マスカレード・ナイト』という複雑なミステリを形成する。それはまさに美しきコラージュの如き絵を描いているようだった。
2021/04/05
パトラッシュ
このシリーズは正反対に方向に仕事のプライドを持つ刑事とホテルマンが、潜入捜査で協力せざるを得ない羽目になっての緊張感がウリだった。今回は山岸がフロントからコンシェルジュに異動したが、さらにプライドの高い氏原が後釜になり露骨に反発されながら殺人犯を追う新田の苦労が見もの。大晦日の仮面パーティーに向けて警察もホテル側も手を抜けず、少しずつピリピリ感が高まっていく様子はベテランの筆で読ませる。ただ、そこまで盛り上げながら頭脳明晰な犯罪者は登場せず、動機も今ひとつ。最高の舞台には最高の名犯人が登場してほしかった。
2022/07/28
ノンケ女医長
重大事件が起きると把握したら。組織防衛の観点からも、警察に全面協力を依頼すると思うけど。ホテル・コルテシア東京はそうではなかった。利用客の非日常体験を何よりも優先する姿勢がとても良かった。フロントオフィス・アシスタント・マネージャーの氏原祐作がお気に入り。次々と訪れる客の全てを一瞬で見抜く才腕は素晴らしい。本物のプロとは何か、見せつけられた感じ。一切、警察に妥協しない様子や、新田浩介警部補の足を(多分)思い切り踏みつけ、フロント業務を完璧に遂行するところに、痺れた。
2022/12/18
イアン
★★★★★★★★☆☆刑事がホテルマンに扮して潜入捜査を行うマスカレードシリーズ第3弾。ホテル・コルテシア東京で行われるカウントダウン・パーティーに、ある殺人事件の犯人が現れるという密告状が届き…。仮面に隠された犯人の正体とは?そして密告者の狙いとは?ホテルが舞台だけに登場人物も多いけど、無関係に思えたエピソードや伏線もしっかり回収されており、それはまるで無駄なピースが殆どない1枚のパズルのよう。ちなみに、謎の客・日下部のプロポーズを断る女性の名は狩野妙子。並び替えると「答えNOか」。これは深読みし過ぎ…?
2020/10/06
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