サクラオト (集英社文庫)
サクラオト (集英社文庫) / 感想・レビュー
sayuri
「サクラオト」「その日の赤」「Under the rose」「悪いケーキ」「春を摑む」「第六感」6話収録の連作短編集。彩坂作品に漂う不穏さは今回も健在。本作では更に緊張感もプラスされ趣向を凝らしたミステリーとなっている。春夏秋冬の各季節に聴覚・視覚・嗅覚・味覚・触覚の五感を掛け合わせた構成は新鮮。ライトノベル風な装丁で軽いミステリーをイメージしていると良い意味で裏切られ予想していた結末は見事に覆される。春の日中に見る満開の桜は美しいけれど夜桜はどこか禍々しさを感じる。その桜の様に人の心の多面性に慄く読後。
2021/03/07
へくとぱすかる
思わず、「舌を巻く」という言葉を思いつく。それほど見事な構成だと感じた。人間の五感それぞれをモチーフにした短編、というだけでもすごいと思うのに、これを連作にした作者の仕掛けにはまいってしまう。とうの昔からミステリの世界は、物理トリックから心理トリックへと重心を移しているが、この作品もまた、人間の心を非常に細かく、ゆれ動くものとして描いていて、ついつい作品の中に自分を没入させてしまった。物語が、読みかけのときには思いもよらなかった結末に行ってしまうので、はしごをはずされてしまった感覚には半端ないものがある。
2023/02/12
★Masako★
★★★★☆ 彩坂美月さん初読み♪音や色等、五感をモチーフにした五話にExtra stageの「第六感」を加えたミステリー短編集。また1話目は春、2話目は夏と季節も順に巡り、5話目はまた春へ。どの話もゾクゾク感がたまらないしっかりしたミステリーだ。そして、読み進めるうちにある事に気づく。それがはっきりするのが最終話だ。ああ、そういうことなのか…。見事な構成、伏線、仕掛け。好みは夜桜の下、緊張感がどんどん高まっていく表題作、不可解さに対する心理描写が上手い「春を掴む」。彩坂さんの他の作品も読んでみたくなった♪
2023/03/27
えみ
聴覚・視覚・嗅覚・味覚・触覚の五感+第六感がテーマとなって揺れる心と日常の変調、そして始まりと終わりが細微に亘って描かれた一冊。人の感覚と四季が重なり合って、人間を浮かび上がらせる。一話そして一話と個性が光る6篇収録の短編集。そこに隠されたメッセージとは何か?気を抜くなかれ、桜が桜故の存在感を発揮した物語は、美しく妖しく闇に色彩付ける役割を果たし、驚きの真実が待ち受ける最終話を妖艶に飾りつけている。読者にお披露目される本書は息吹を吹き込んだ謎と罠が交差し、連作としての効果を十分に発揮した意表を突いた小説。
2021/01/23
モモ
桜で囲まれた廃墟となった学校で続く人の死。「春」では実らなかった恋とその結末。「夏」では母を病気で突然亡くした家族の話。それぞれが懸命に日常を維持しようとするが、すれ違ってしまう。ただならぬ不協和音からの再生が良かった。「秋」高校時代みんなの憧れだった綾子。その思いがけない結末にため息をついた。「冬」はケーキが嫌いになった理由がつらい。「春」バイト先の男性からの訳が分からないアプローチに困惑する風花。一歩踏み出せて良かった。それぞれの話で、散りばめられていた違和感が最後に明かされる。骨太の一冊でした。
2021/05/09
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