透明な夜の香り (集英社文庫)
透明な夜の香り (集英社文庫) / 感想・レビュー
tenori
読んでいて、物語の映像が浮かび上がってくる小説。それに加えて香りまで添えてくるあたり、千早流の真骨頂。嘘を体臭から察知するほど特異な嗅覚ゆえネグレクトを受けた過去を持つ天才的な調香士・朔と、引きこもりの兄の自殺を止めることができなかったことで自分の感情を押し殺して生きる主人公・一香。孤高の香りを求める人々との関わりの中で、互いに潜ませた闇を紐解いた先の結末。四季おりおりの植物の描写や脇を固める登場人物たちのキャラクター設定も秀逸で、決して劇的とは言えない着地点も含めて読後感の良い小説。
2023/07/17
エドワード
あらゆる匂いを作ることの出来る調香師、小川朔。調香師が主人公の小説は時々あるね。眼に見えない<透明な>人や物の痕跡である香り。その神秘的で耽美的な特徴が文学の源泉となるのだろう。あらゆる匂いを感じてしまう朔の生き辛さ。もう一人の主人公、朔の洋館で働く若宮一香にも謎がある。訳ありの家族。独り暮らしで書店員のバイト中に動けなくなる。朔と働くうちに、徐々に生命力を取り戻していく。嘘やストレスや自律神経の乱れも匂うというから不思議だ。香りは遠い記憶をも呼び覚ます。一香の記憶とは?解説が小川洋子さん、一択の人選。
2023/05/25
ゆいまある
町外れの古い大きな洋館。浮世離れした天才調香師が暮らしている。庭師の老人源さんのキャラもベタ過ぎる。50年前の少女マンガかよ。りぼんかよ。なかよしかよ。天才調香師の手伝いを始めるメンタル不調な主人公。ヒキなのに家事の手際よすぎ。調香師からの厳格すぎる指示を守るうち、健康を取り戻し、やがて調香師の道具のひとつになってしまいたいというマゾヒスティックな願望を持つに至る。抑圧された性愛がどう成長するのかと思いきや、ラストそう来るの。依頼人のトラブルを香りで解決するミステリ要素あり、読みやすいし続編欲しい。
2023/12/31
となりのトウシロウ
桁外れの嗅覚力を持った天才調香師・小川朔、完全紹介性でオーダーメイドの香りを作る彼の元には、秘密を抱えた人が訪れる。そんな彼の元に家事手伝いで事務受付のアルバイトとして働き始めた若宮一香も、友人にも話したことのない大きな秘密を抱えている。朔の能力は匂いだけで目の前の人の行動や感情を全て顕にするが、朔は決して人に興味を示さない。二人の大きな欠落が読者をソワソワさせる。香りの記憶は深く、その香りに紐づく感情を蘇らせる。本作は今までの読書とは違った香りを醸し出していて、その香りが鮮烈な記憶となる予感がある。
2024/09/08
りゅう☆
調香師朔の家で家事手伝いのバイトを始めた一香。幼馴染の新城の探偵業を手伝いながら客の希望の香りを作る朔。人並外れた嗅覚を持ち、嘘をつく時などのどんな香りでも嗅ぎ分ける。不倫相手の香りを欲する女、死が迫ってる人、障害を持つ子への香り。どんな香りも作れるけど、こんなに香りが入ってくると苦しいな。そして一香が心の闇と向かい合えるために作った香りの結果、変化が苦手な朔が知らない変化に気付けた時、優しい思いがした。鋭い嗅覚を持つが故の朔の苦しさや孤独に切なさもあったがミステリさあり、源さんや新城との信頼関係がいい。
2023/07/03
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