水たまりで息をする (集英社文庫)
水たまりで息をする (集英社文庫) / 感想・レビュー
ケンイチミズバ
ある日突然、夫がお風呂に入らなくなるという不条理と向き合う妻。夫は臭くなってゆきますが、虫にはなりませんが、カフカの変身も少し連想しました。これがもし、事故などで普通のことができなくなったパートナーの面倒を見ることに直面したと置き換えてみると、どうだろう。長く生きていれば、日常から非日常に直面することは少なくないと思う。私がもし、この妻の立場ならいっしょに暮らすことは・・・お風呂に入らないことくらいでも耐えられないし、寛容になれない。作品のテイストがこの方らしいというのは当たり前ですが、個性が際立ってる。
2024/07/05
みねね
非常に辛い読書体験だなぁ。これをうまくマイルドにできたからこその芥川賞だと思った。/数十年前には(数日)風呂に入らないなんて当たり前で、真夏なんかそのにおいどうしていたんだろうと思うことが多いが、きっとそのためのタバコだったのかなあなどとマイルドに考えていられるのは全部過去の他人事だからだ。今作は全部を全部背負い込みすぎていてほんとうにしんどい。結局そんな考え方から逃げられない、救いのない終わり。他人の評価も自己評価も参考意見で、本当の自分なんて近似としてしか捉えられないっていう諦めは大事なんだろうなあ。
2024/10/20
だーい
風呂に入らなくなった夫とその妻の話。風呂に入らないというのはきっかけであり、彼らを取り巻く者たちの意識のない悪意、普通を押し付けられる苦痛。それらになんともないような顔で静かに発狂する衣津実の姿が生々しい。自分が狂えない人間だと自覚しているところにすごく共感した。ままならない日常をじりじりと送り続ける地獄。多分夫は塵が積もって風呂に入らないことで狂うことができたのだ。だからある意味幸せだと思う。狂えた夫、狂いきれない妻の対比が上手だなあと思いながら読んだ。解説もなるほどと読んだ。
2024/09/07
カブ
ある日、夫が「風呂には入らない」と告げた。その事を妻は淡々と受け入れていくように見える。今の社会でそれは無いだろとか、心の病気を心配して受診するとかはなく、夫の異常ともいえる行動に付き合って山奥での生活を選ぶ。物語は静かにすすんでいくが、何もかもを呑み込んでしまうような恐ろしさを感じた。
2024/07/05
JKD
都会育ちの夫が突然風呂に入らなくなった。という変なくだりから始まる。地方育ちの妻は夫婦の問題なので自分たちで何とかしようと試みるが夫婦関係は悪くないのでボチボチと生活していたのに義母が横やりを入れてきてあーもぅ!ってなる。都会の人は文化的感性は高いのに他人への干渉はしない。だから夫も自分が悪臭を放ってもあまり気にしない。一方で地方出身の妻はそれが許せないが許してしまう。解説を読んでこの物語が整理できた。「持ち堪えながらも生き延びてしまう残酷さ」というフレーズが最後にグッときました。
2024/06/12
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