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パトロネ (集英社文庫)

パトロネ (集英社文庫)

パトロネ (集英社文庫)

作家
藤野可織
出版社
集英社
発売日
2013-10-18
ISBN
9784087451276
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パトロネ (集英社文庫) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

表題作ともう一篇「いけにえ」を収録。「パトロネ」は一貫して視点人物である「私」によって語られる。冒頭で妹が登場するが、「私」と同じ大学に通い共同生活を送りながら、2人の間の交流は極めて乏しい。それは、写真部の学生たちとにおいても、時間と空間を共有しながら、同様に関係性は薄い。「私」の皮膚の疾患は他者に対してはある種仮面の役割を果たし、そこにディスコミュニケーションを生じさせる。もっとも、それも偏に「私」の側の問題なのだが。さて、小説内の時間の進行は「りーちゃん」の闖入とともに、大きく揺らぐことになる。⇒

2021/01/07

優希

まさに純文学です。「私」の意識だけが浮遊しているような感覚でした。淡々としているようでザラザラした感触があります。「私」がいつまで「私」だったのかわからなくなるほど、突如世界は綻び、蝕まれていく様子はやがて何もなくなるような恐怖を呼び起こします。ストーリーはあるようでないようなもの。現実の連続がありつつも、その連続性も見失うようでした。何が現実なのかを考える感覚すら麻痺させられます。不思議な世界が口を開けていて、そこに飲み込まれてしまったようでした。

2015/09/21

dr2006

パトロネとはフィルムカメラにフィルムを装填する筒状のカートリッジのこと。主人公エミの住むワンルームに同じ大学に進学した妹が移り住んできた。妹の行動にストレスを感じたエミの現実は、徐々に白色のクーピーペンシルで塗られた様に雲っていく。この作品において、幻想と現実の配置はある種の調和になっていて往来が激しい。現像される前のパトロネに収まったフィルムの画像は、現実になる前の過去である。そして、白色のクーピーの必要性は再検討すべきだ。読んでいて、現実と幻想の境目が曖昧で情景に主観が浸食されていく様な怖さを感じた。

2021/06/30

いたろう

中編2編。表題作は、何だかとりとめもないような展開、何でもないところでやたらと細かい描写に、徐々に募ってくる主人公と他者との関係性の違和感。もやもやしたまま読了後、作者の藤野さんが、あるインタビューで、主人公の人物像に言及しているのを読み、そういうことだったのかと一応納得はしたものの・・・。だとすると、また別の違和感が。もやもやは消えず。もう1作の「いけにえ」は面白かった。ごくごく平凡な主婦にだけ見える小さな化け物。何だか妙に可笑しい、と思っていたら、ラストに仰天。「いけにえ」とはそういうことだったのか。

2016/12/04

*maru*

藤野作品3冊目。何なんだ。読めば読むほど不安になってくる。彼女たちの言葉が怖い。時間なんて存在しない。この場所だって、この出来事だって、あの人だって、すべて幻なのかもしれない。藤野氏の物語には、得たいの知れない何かが棲みついている。理由付けや反論、説明を一切拒み、読み手の度量を試すかのように言葉を吐き出し続ける何かが。藤野作品は『爪と目』『おはなしして子ちゃん』とまだ3冊目だが、読み手を疑心暗鬼にさせる天才だと思う。ざらざらした読み心地、ざらざらした余韻。始まりも、終わりもない物語がやはり癖になる。

2018/03/19

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