よだかの片想い (集英社文庫)
よだかの片想い (集英社文庫) / 感想・レビュー
さてさて
『今回は主人公の成長を書きたかったんです』と語る島本さん。そんな島本さんがアザのある女性を主人公に描いたこの作品。それは、アザのある顔を自分だと意識した女性が、アザを隠し、世の中に後ろ向きになる逃げの人生を送る中で、『私はずっとこのアザを通して人を見てた』と、自身のアイデンティティに気づいていく様を見る物語。『遠い星を見つめ』る主人公・アイコの極めて前向きな、そして納得感のある結末を見る物語。主人公・アイコが抱く想いのその先に、空いっぱいに瞬く星空を見上げる幸せで胸がいっぱいになった素晴らしい作品でした。
2021/07/03
masa@レビューお休み中
アイコのように顔にアザがあったとしたら、自分はどう生きていただろうか。彼女の生い立ちと、振る舞いと、そしてその後の成長を見ていると、ふと自分が同じ立場であったらどうなのかということを考えてしまう。想像はあくまで想像でしかない。現実の世界を見ることも、彼女と同じ立場になることもできない。だからこそ、アイコの周りにいる人たちの愛がひときわ目立つ。両親の愛、友人の愛、教授の愛、かけがえのない大好きな人からの愛…。気づくとすべてが愛で満ちている。そんな中で彼女は生きているのかもしれない。
2016/05/18
のいじぃ
読了。顔にある大きな痣を通して成長する女性の物語。周りの極端な反応は他著の「コンビニ人間」のようで、映画化の話の強引さや、泣いて抗議するアイコに最初は戸惑いましたが、飛坂と出会うことで自分と向き合い周りが見えるようなる過程が丁寧に描かれてしたので最後はエールを贈りたくなりました。信頼している人の反応が自分と違うと知った時の寂しさ、それでも影響しあい支えられていることなどを受け入れて不器用ながらも前を向き、進む姿は好感が持てました。他意はなくとも痣は見てしまうかなぁ、未熟者ですみません。/「7月24日通り」
2016/09/02
エドワード
顔にアザのあるアイコは、子供の頃から自信が持てず、物理学科の大学院で研究をする毎日。出版社の取材から映画監督の飛坂と出会い、一目惚れした自分に驚く。私もまぶたにアザがあり、幼稚園の頃、大学病院でドライアイス治療を受けた経験がある。結局治らなかったが、メガネをかければ気にならず、今に至る。でも女性には相当キツイね。アイコが素のままの自分を受け入れ、卑屈になることなく女性として前進していくことと、家族や親友との絆が素晴らしい。アイコを好きだと言いながら他事を優先する飛坂には最後まで腹が立ってしょうがなかった。
2016/10/19
扉のこちら側
2016年576冊め。先天的に顔面に大きなあざがある女性が、学校社会の中で葛藤しながら成長していくことは想像に難くはない。しかしその困難さをどのように受容していくかということを、ここまで深い納得で読者に示してくれる作品だとは、予想していなかった。著者に敬意を。成就しなかった恋愛は、人に何を残すのかということでは『自分よりも他者を』という精神を与えてくれるというところか。タイトルやモチーフは賢治のだけれど、斉藤隆介の『花さき山』を思い出す。
2016/07/19
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