水無月の墓 (集英社文庫)
水無月の墓 (集英社文庫) / 感想・レビュー
aquamarine
生きているということと生身の体でなくなってしまったこと、この世とそうではない部分との境目、どちらもきっと普通にその辺りに転がっている。そんな気がしてくる。死んだと自覚していなかったらなおのこと、死者が成仏できないほど残されたものが心を残してしまったら更に。この本は「怪談」「夜は満ちる」とともに文芸怪談文庫三部作だそうだが、しっかり怖いのに怪談という言葉より幻想怪奇譚という方がよく似合う気がする。文章の端々から匂い立つ冷気がたまらない。題名で誘われた表題作をはじめ、どれもが秀逸で一つ読むごとにため息が出た。
2020/06/12
アッシュ姉
死者の気配が色濃く漂う濃密仕立てで、再読ながら存分に愉しめた。小池さんのサイコホラーは別として、幻想怪奇短編集のなかではマイベストといえる絶品揃い。静寂のうちにぞわりと忍び寄る怖さがたまらない。散歩途中に出会った一家の主人に想いを寄せる「夜顔」、大学教授との逢瀬を思い出す「水無月の墓」が真理子さんらしくて特にお気に入り。おつかい途中の主婦の「私の居る場所」も強く印象に残った。また読み返したいので、リアル本棚へ。
2020/04/06
naoっぴ
この世の者とあの世の者が交わる話が八編。設定はさまざまだけれど、似たようなものを集めたのだろうか、どれも切なくてゾッとするような雰囲気の話が並ぶ。小池真理子さんは初読みだが、するすると滑らかで湿り気を帯びた文章だなという印象。何気なく読んでいるといつのまにかこの世でない場所へと連れて行かれ、今いるところがあの世なのかこの世なのかわからなくなる。夜、しんとした部屋で読んだら怖いだろうなあ…。
2020/01/22
HANA
ぼんやりと此岸彼岸の区別が無くなり、そのあわいから何かが立ち昇ってくる。小池真理子の怪談を読むたびに思い出さされるのは「情念」という言葉であり、生者も死者もその抱え込んだ想いに捕らわれ続け何処にも行けず立ち尽くしているようなイメージがある。本書表題作はとりわけその傾向が露わ、最後以外取り立てて奇妙な事が起こらないのに、これほど滅々としているのは文章もあるけどそれがあるからだろうなあ。他にもアンソロジーピースとしては常連の「神かくし」「夜顔」「流山寺」等質の高い怪談が並んでおり、どれも鬱々としていて満足。
2020/11/21
けぴ
暑い夏には小池真理子。ぞくっとする短編か八篇。『足』、『流山寺』、『私の居る場所』が特におすすめ。
2022/07/09
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