師父の遺言 (集英社文庫)
師父の遺言 (集英社文庫) / 感想・レビュー
Willie the Wildcat
舞台裏に生きる師弟の世界。生まれ育った環境が、自然公私に影響を及ぶ過程に”縁”を感じる。転機を挙げるのであれば、17代目勘三郎の「寺子屋」の感想を勘三郎に語る件。育んだ眼力、感性といった感。興味深いのが、師父との出会い。後継者命名も、決して”偶然”ではなかろう。一方、師父と対照的なアプローチが齎す悲喜エピソードは、演芸の世界の深さであり、暗部なのかもしれない。「実業vs.廃業」。これが著者の本音であり、苦悩した要因でもあり、更には、キャリアを堪能した背景という気がする。
2018/06/30
qoop
家・血縁・伝統といった前近代的価値観に背を向けたつもりがその牙城のような歌舞伎に浸る… その渦中で師父と慕う武智鉄二と出会い、薫陶を受けたことで、相反する前近代への思いと正面から向き合って切り結んだ著者の半生記。毀誉褒貶激しい武智について弟子である自分が書いても身贔屓と取られるだろうと一度は固辞した著者が、本書を記した理由は何か。武智の広範な業績を評価できる人材などいなかろうという諦念と、芸術至上主義者である彼を理解する時代はもはや訪れないとの諦観ゆえか。
2017/10/27
バーベナ
古典芸能もわからない、武智鉄二氏のことも初めて知った。でも、著者が育った戦後の祇園、旧家の環境や、若者の熱量が迸っていた学生運動の時代、そしてバブルに向かう気配・・という時代の検証として、とても面白く読んだ。きっと、歌舞伎や演劇が好きなら更に熱くなれると思う。男性陣の柔らかくも突き放すような女言葉がなんとも雅やか。
2022/10/26
shushu
著者の半世紀であるとともに、時代の社会、雰囲気、価値観、そのことへの著者の考えまで及んでいて、とても興味深い。注が丁寧に付いていて、こういうとこまで説明するんだ、とちょっと驚いたところもある。
2018/01/02
rinrinkimkim
酒井23。文章が長くてちょっと三島に似てるな。と思いました。古典芸能(というか松竹)に深いつながりのある方で六代目の話なんかも出てきてて興味深かったです。ちょうど先週にっぽんの芸能で冨十郎さんを特集してて、読書と重なった。こういう家に生まれ、育った境遇でしか書けない(書き残せない)歌舞伎役者さんたちの素顔や舞台風景はぜひとも書いておいて欲しいです。演劇界新年号かるた「念には念を入れ歌右衛門の幕切れ」「金持ち喧嘩せず梅幸」はバカ受けしました。こういうのをたっぷりと読みたいです。
2022/05/12
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