自由なサメと人間たちの夢 (集英社文庫)
自由なサメと人間たちの夢 (集英社文庫) / 感想・レビュー
おかむー
大森靖子の推薦オビとあらすじから想像していたほどに毒はなくライトなメンヘラ感といったところかな。『よくできました』。死にたがりに明晰夢、強化義手にサメとキャバ嬢の交流、どこか奇妙な仕掛けに絡めてヒトの弱さを浮き彫りにする作風は、共感を誘う登場人物の心の動きもあってどこか乙一作品に通じる感触。相互の繋がりはない七篇のなかで二篇だけ同じ仕掛けを使っているところがほんのり引っかかったかな。
2019/07/21
きっしぃ
7編の短編集。なかなか拗らせてる人多め。死に憧れ自殺未遂を繰り返す女、義手の強化オプションにハマる男、明晰夢が見たい男、サメに憧れを抱く女。拗らせつつもハッピーエンド多めだけど、一番好きなのは、虫というあだ名をつけられた女子高生が起こした事件、『虫の祈り』ひとつの事件でも人によって描くストーリーは様々。信じたいものを信じてる。夢で見た絵画を探す女と、美術館で模写をする男の出会いを描いた『彼女の中の絵』もよかった。
2020/04/20
niisun
人間たちのちょっと歪んだ夢が、人間から自由を奪っている。自由を得たサメが空から見た人間の不自由さは、人間たる所以だろう。ただ、人間だってある時までは「悪から宇宙を救う少女戦士になる」というような、周囲の環境には影響されない、まさにイッツ・ノット・ユア・ビジネスな、束縛のない夢を見られることを水族館の少女が教えてくれる。書き下ろしの「虫の眠り」だけ、全体から少し浮いている感じがしますが、ブレのないバランスの取れた良質な短編集でした。小説すばる新人賞受賞後の2作目だそうですが、これからが楽しみな作家さんです。
2019/03/21
橘
文通友達さんとの読書会の課題本としていただいた本です。初めましての作家さん。面白かったです。消えたかったり、現実から逃避していたり、という、なんだか近しい病んだ人々…と思ってしまいましたが、「サメの話」「水槽を出たサメ」がとても好きでした。「水槽を出たサメ」は、これがこの本の締めくくりのお話で良かった、と思いました。エーテルのサメが空中を泳ぐ様が綺麗で。そして涼香が前を向くのも。涼香も少女もサメを「サメ!」と呼んでいるのも好きです。この作家さんの他の本も読みたくなりました。
2019/03/23
かば
小説を読みながら私たちは世界に裏切られる瞬間を待ち望んでいる。その快楽の源は比類なき想像力であるはずだが、また同時に現実の残酷さを醸成する言葉の力も必要なのだ。この作家は、その両方を兼ね備えている。一瞬で現実が転覆する瞬間も、そんな希望が現実に轢き殺される瞬間も、どちらも見てみたい。その我儘な欲望を叶えてくれた。これはとんでもない掘り出し物なのかもしれない。
2019/02/05
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