蒲公英草紙 常野物語 (集英社文庫)
蒲公英草紙 常野物語 (集英社文庫) / 感想・レビュー
さてさて
常野由来の人ではない峰子さん視点で書かれた彼女の若かりし頃の日記を元にしたこの作品。”常野入門編”と言っていいほどに常野に関する説明が丁寧になされていきます。そんな中で印象に強く残ったのが『僕たちは自分で自分を見ることができません』という椎名さんの語りでした。直接には見えない自分の姿を長い時間を掛けて見出していく、それが人間なんだということ。自分を見るということは、自分が何をなすべき人間なのかを見極めることでもあるということ。常野の人たちの特殊能力を通じて、立ち止まって考える時間をいただいた気がしました。
2021/12/26
風眠
明治時代、村の名士の邸に、病弱な令嬢の話し相手として奉公に出ていた少女の目線から、邸の人々の思い出、村で起こったこと、大人になっていく途中の心の揺れなど、少女らしい多感な感性で描かれている。『常世物語』シリーズの2作目である。根底にある雰囲気は『ユージニア』に似ているように思う。幼いながらも、命をかけて村の役に立ちたいと、氾濫した川の濁流に呑み込まれていった聡子の健気さに心打たれた。生きていく事の喜び、哀しみ、苦しみ、輝き、等々が、随所にちりばめられた傑作だと私は思う。何度でも読み返したい物語だ。
2012/06/20
SJW
常野物語の第2作目。時代と場所は20世紀初頭の東北の古き良き農村。お屋敷の末娘聡子について、お屋敷の隣の医者の娘峰子が回想するファンタジー。のどかな田園風景とお屋敷の人達を中心に描かれ、不思議な力を持つ春田家が引っ越してきて話に加わる。最後の運命の章には引き込まれてしまい、悲しみで終わるかと思ったが、不思議な力で聡子の思いが皆に伝わり悲しくも読後感は良かった。しかし、最後の場面は太平洋戦争直後で暗い時代の到来が切ない。
2017/11/18
しんたろー
常野シリーズの2作目で長編…明治後期、東北のある農村を舞台にして、医者の娘・峰子の目線で描かれる数年間の物語。村にやって来た「しまう」能力を持った一家との交流が牧歌的に語られる前半は淡々としているが、著者の筆力で「良く出来た昔話」のように退屈せずに楽しめた。中盤からの展開は切なく哀しい部分も多いが、情愛が込められた話なので素直に「信念」や「運命」に思いを馳せることができた。終盤は親子愛や他者への思いやりが深く、目頭が熱くなるシーンに心洗われる気分だった。「恩田流和製ファンタジー」と言える良作だと思う。
2018/11/09
きんぎょっち
異能の力を持つ常野の人間たちと、彼らと関わる人間たち。常野の力は普通の人の人生にどんな形でかかわってきたのか、常野一族はその力故にどんな生き方を選ばざるを得なかったのか、それらを丁寧にごく普通の少女の目から、彼女の人生を通して描いている。常野の能力は力ではあるけれど、人々の信念や心を脅かすようなものではなく、時代の流れに対抗できるものでもない。大きな流れの中で光る小石のようなものにすぎず、やがて、常野の人々もそれ以外の人々も、同じように川底に沈んでいくのだ、と言われたようなラストだった。せつない。
2018/07/31
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