千年樹 (集英社文庫)
千年樹 (集英社文庫) / 感想・レビュー
しんたろー
普段の得意技であるユーモア溢れる作風と異なって意欲的な実験作と感じた。田舎にある大木に関わる8つの短編は、人の愚かさや理不尽さを渇いたタッチで描き、哀しい無常観が漂う…各編では過去と未来が交錯する構成で多面的に人生のアヤを見せている。滑稽さが顔を覗かせる部分もあるが「ハードな荻原浩はいかが?」と問い掛けられた気分…連作形式ながら通して読み終わると一つの長編として考えられていたものと気付いた。どの話も癖のある味だが、ハートウォーミングな『バァバの石段』は丁度良い甘さだし『瓶詰の約束』はホロ苦さが秀逸だった。
2019/03/15
馨
神社に隣接する千年樹にまつわる短編集。1つの作品にストーリーが2つずつ出てくるので、短編集だけどなかなかのボリュームで読みごたえありました。何気に話も繋がっていたり時間の経過後の話だったりして巧いです。大東亜戦争の話がらみの短編が良かったです。『瓶詰めの約束』『バァバの石段』が好きです。
2018/12/05
KAZOO
荻原さんがまた違った分野で楽しませてくれました。千年以上前に育ったクスノキにまつわる現在までのはなしがいくつかありそれぞれにまた二つの話に分かれて人間のおろかさ(?)や情愛などを題材としています。いくつかのはなしだけをピックアップしてドラマ化や映画化ができるのかもしれません。実験的な側面もあるのかもしれません。
2019/01/01
jam
相対性理論による時間の概念は絶対的なものだけれど、私たちが感じる時間は相対的なものである。そしてそれは主観に依存し一律ではない。絶対的な時間は数字で表すことができるけれど、相対的な時間を表すことは不可能である。私たちは「時間の流れ」を客観的に共有はするけれど、感覚的に共有することはできない。千年という長い時間が「くすの木」に流れ、物語の最期にそれは断たれる。「くすの木」の前を人は次々に通り過ぎたけれど、「くすの木」はそれ以外の何物でもない。これは実存を問う物語でもあり、無常を描いた物語とも言えよう。
2018/05/16
TATA
おや?いつもの荻原さんと少し趣きが違ってゾクッとする感じの短編集。平安の世に落ちたくすの実は人の世の因縁を吸い取り、樹齢千年の霊木となる。時を超えた因縁を晴らすのも人間の業。重めの作品が多いのですが、それでも荻原さんらしいユーモアを感じる「バァバの石段」とホロッとする「瓶詰の約束」が好み。やっぱり荻原さんはカラッとした明るい作品が好きですねー。
2019/04/16
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