蛇行する川のほとり (集英社文庫)
蛇行する川のほとり (集英社文庫) / 感想・レビュー
さてさて
4つの章からなるこの作品。それぞれの章は、毬子、芳野、真魚子、香澄視点に順に切り替わって展開していきます。そして、特に物語は後半に行くにつれ、過去の殺人事件の真相に迫るミステリーが織り交ぜられる一方で、少女達の儚い青春が、とてもノスタルジックな世界観どっぷりな中にゆっくりと展開されていくこの作品。そんな作品はまさしく”青春もの”として、少女四人の”青春もの”らしさに溢れる関係性が見事に描かれているのがとても印象的です。作品全体を覆う独特な色彩感がとても印象に残る恩田さんの”青春もの”の傑作だと思いました。
2022/01/07
パトラッシュ
罪を犯したと自覚しなかったり、目を背けたままでいれば罪にはならない。しかも美しい記憶の中に紛れてしまうと、罪の意識は完全に拭われてしまう。憧れの先輩たちと過ごす暑くまぶしい夏の合宿で、忘れたはずの暗く厳しい冬の秘密と再会させられた毬子の心は追い詰められて、破滅へとひた走っていく。ティーンの少年少女は無邪気だからこそ残酷で、純粋だからこそ愛していたものでも平気で壊してしまう。こうした情景を描かせれば、恩田陸の右に出る作家はいない。無残な結末のはずなのに、あまりに切なく哀しくてもう一度体験したくなるのだから。
2023/05/20
yoshida
高校生の毬子は、同じ美術部の香澄と芳野から夏休みの合宿に誘われる。憧れの先輩二人からの誘いに、毬子は胸を踊らせ参加する。そこには彼女達が幼い頃に起こった、女性の死と幼女の事故死の影が漂う。まぶしい夏の日々。大人と子供の間の少女と少年達。毬子は事故死の遠因は自分にあると思わされる。運命の四人の少女と少年。毬子が贄にされると思った刹那、衝撃的な事故が起こる。明かされる謎。呪いの仮面からの解放。本作は単なるミステリーの範疇には留まらない。輝く夏の日々と、陰惨な事件への疑惑が見事なコントラストを描く。素敵な作品。
2016/08/14
SJW
演劇の舞台背景を描くために高校美術部の先輩 香澄の家で行われる夏合宿に参加する毬子。その家で過去に起こった事件の秘密が徐々に明かされていく推理ミステリー。恩田さんの憧れの少女たちを封じ込めた作品で、私には久々の閉じられた世界でのミステリー。この本で恩田さんの文章や表現の素晴らしさに改めて気が付かされた。直前に読んだラノベと大きく違うため、その差に気がついたみたい。色々な作家さんの文章を読むと自分の好きなプロットや文章が見えてくるのは面白い。
2020/05/02
マーム
今年最初に読了したのが私にとっては初の恩田陸作品。最初に読む作品としてこのチョイスで良かったのかどうか分かりませんが、タイトルに惹かれて購入。第一部から終章までそれぞれに語り部が異なります。これはその4人の少女の物語。ひと夏のレモンスカッシュのように甘酸っぱい、でも爽やかとは言い難い思い出。過去に起こった事件の真相を解明しようと活動し、終盤、探偵役として壇上に上がらされた少年も、結局は少女の掌の上で踊らされていただけなのではないかという疑念。そのしたたかさは既に大人の女の顔。失われ行く少女の時間の物語。
2012/01/02
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