風花 (集英社文庫)
風花 (集英社文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
川上弘美さんには珍しい純リアリズム小説。それも、『センセイの鞄』のセンセイとツキコさんのような突飛なカップルではなくて、ごく普通の夫婦の危機の物語。その意味では、これまた珍しいシリアス小説でもある。結婚は「対幻想」なのだが、主人公「のゆり」(変わった名前だ)は、そのことに7年間も気づかなかった。この小説は、そこからの彼女のほんとうの「自分探し」の旅の物語だ。いわば、遅れてきたビルドゥングスロマンといえなくもない。淡々と描かれているが、時に島尾敏雄を思わせる表現も見られ、けっして表層的なものには終わらない。
2014/06/17
おしゃべりメガネ
読もう読もうと思っていて、なかなか読めなかった本作ですが、先日作者さんの別の作品を読んで、改めて作者さんの文章に魅せられて、やっと本作を読了です。特段、何か大きなコトが起きるワケではありませんが、淡々と日常のひとコマをゆっくりと奏でるように一つ一つの文字や言葉で綴る川上さんの世界観は見事に芸術だなと。テーマは相変わらず決して平穏とは言い難い内容ですが、そんなテーマをシリアスに感じさせず、ストレスなく読ませる作者さんの筆力にただひたすら感嘆してしまいます。主人公「のゆり」さんの未来が明るくなればいいな。
2020/02/11
じいじ
これまでの川上小説とは風合いが違うぞ、と感じながら読み始めた。主婦のゆり32歳が主人公。結婚7年目にして夫の不倫を知る。そして、夫から離婚を仄めかされる…。その不倫相手は、二人の離婚は望んでいないだけでなく、夫とは結婚する気持ちがないことがわかります。夫に問いただすも優柔不断な夫、不可解な夫婦で先を読む気力が失せました。川上さんの小説『センセイの鞄』は、三度読み返しするほど好きな作品です。今作は2・30年前なら読了したいとこですが、読みたい本が山積しているので、途中下車することにしました。
2021/06/21
あも
夫の浮気を知った主人公のゆり。川上弘美作品に出てくる人々を象徴するような現実を俯瞰して観ている様な、何かのフィルター越しに受容しているような彼女は、怒るでも諦めるでもなく、ただそこにいる。ぐずぐずと言い訳をする恋愛小説のように、さっさと行動すれば良いのにと思わせるような書き方でないところが流石。何かを受け入れ変わっていく速度がゆるやかだからといってどうしてそれを他人が急かしたりして良いというのか。砂粒を数えながら海辺を歩く。ふと顔を上げた瞬間の朝焼けに一瞬、目がくらむようにさみしくてどこか美しい話だった。
2014/01/29
ゆか
主人公夫婦はダンナ様も奥様もどちらもフワフワしている感じ。通常であれば泣いたり怒ったり、それこそ泣き叫んだりするような場面ですら、どこか他人事のように淡々としているんだけど、こういう夫婦も多いのかもしれない。ダンナ様も奥様もきっと流されやすいタイプ。その割には自分が納得しないといけないタイプで。。。不倫の話ではあるけど、ドロドロしていない代わりにリアルを感じた。いざ誰かに取られたり、離れるってなると惜しくなるのは人間らしい。
2018/05/14
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