読む人間 (集英社文庫)
読む人間 (集英社文庫) / 感想・レビュー
夜間飛行
黒人のジムを助ければ地獄落ちと思いながら、「よし、僕は地獄へ行こう」と瞬時に決めたハック。それを自分の生き方にしてしまった大江さん。渡辺一夫の翻訳を原文と読み比べながら一語の重みを体得していった経緯は、彼の小説作法にとって極めて重要な体験だったらしい。なるほど大江の小説の文体には、この感動が生きているのだと納得がいった。サイードとの交流も心に残る。文学をやめようとした時勇気を与えてくれたのが、『文化と帝国主義』だったという。本との出会いは人を新しい一歩へ向けて、導くというより押し出してくれるのだと思った。
2014/09/14
メタボン
☆☆☆☆ 大江健三郎の講演集。エリオット、ブレイク、ダンテの神曲などを題材として、障害を持つ息子との共生や、四国の村の神話的な物語を紡いできた大江の作品は、ずっと読んできたものだったので、この講演の内容は腹落ちするものだった。サイードの「後期のスタイル」について言及する講演の回はちょっと難しかった。まだ「おかしな二人組」三部作を読んでいないので、しっくりきていないのだと思う。
2023/01/12
風に吹かれて
登場するのはダンテ、エリオット、サイードなど大江の小説でお馴染みの人々なので興味深く読むことが出来る。 「自分という人間につながっている」と感じる本や著作者たち。分からない単語は徹底的に辞書も読み込んで、原書で、また、研究書も原書で読む大江。本そのもののみならず、ヴァージニア・ウルフを看病したこともあるジョフリー・ケインズ(ジョン・メイナード・ケインズの弟)という医師は何冊もブレイクについて本を出版しており、すばらしいブレイク研究者だった柳宗悦が別の方向へ行ったことを残念がっていた、など話題も豊富。 →
2022/05/09
ホシ
06年と11年に行われた講演をまとめたもの。大江氏の文学論、創作裏話、交友関係の話を交えつつ、氏がこれまでに影響を受けてきた本(と人物)を語るという趣向です。大江ファンは必読の一冊。ただ私は大江作品を通読したことがなく、紹介される作品も『ポオ詩集』『神曲』や洋書など親しみやすいとは言いにくい作品が多く、途中からは斜め読みで、あまり頭に入ってこなかった^^;影響を被ったエドワード・サイード氏や大江氏の「愛国心」の捉え方が気になりました。マークトウェインの『ハックルベリイフィンの冒険』も読まねば(恥)。
2021/07/30
ナハチガル
高校に入って初めて本屋で本を選んで買うという体験をし、占領軍の図書館でこっそりポーの詩を写とり、一生持ち続けるつもりで大事な本にインクで書き込みをし、3年ごとに対象を変えて特定の作家を読み込み、意味の分からない詩は暗記し、新しい文体を見つけ、売れる当てのない小説を書き続ける。手すさび的な読書案内と思ってつまんでみたら、腰が抜けるほど重い漬物石だった。ノーベル賞作家なのに村上春樹に脅威を感じておられたり、自虐的でグチが多いのもいい。タイトルはこれ以外考えられないが、装丁は写真じゃない方がいいと思う。S。
2021/11/05
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