許されざる者 上 (集英社文庫)
許されざる者 上 (集英社文庫) / 感想・レビュー
キムチ
筆者に初めて触れる。何を持って「許されざる」ことなのかを知るべくの上巻。日本版紀州の「風と共に去りぬ」といった感も随所にあり、退屈させぬ展開。明治の中期はこの様に廃藩の権力争いもありつつ、世界に目をはせて行ったものが多かったのが胸をわくわくさせる。大石氏は実在の人物ながら、絡ませる大谷氏や新宮の実在人物、菅野すがらの一味はやや無理のある展開に感じられ、作り物っぽい。今日とは大きく異なり、当時はロシアが近くに感じられていた事が面白く、下巻へ。日清日露で身の丈以上にから騒ぎして行った様子も面白い。
2014/06/05
yamakujira
新宮をもじった森宮の町で、洋行帰りの槇はドクトルならぬ「毒取ル」と敬愛されていた。ずっと読みたかった本なのに、どうも冗長に感じて、中でも千春の人物造形が少年漫画のヒロインみたいで白けてしまい、読み進めるのに苦労して半月ほども費やした。大石をモデルにした槇はもちろん、永野の殿様はじめ、上林とか谷とか、森宮界隈の人物は創作や仮名なのに、「城下の人」4部作の石光真清がでてきて驚いた。理不尽な悲劇に向かって下巻は加速するだろうか。(下巻に続く)
2019/12/12
まると
いつか読もうと思っていた辻原さんに初めて着手。上巻を読んだだけでも時代考証が的確に成されていて、ストーリーテラーとしての素晴らしさも感じます。悪い人間は登場しますが、いまだ「許されざる者」の正体が判然としません。その答え、更には伝えたいことが、恐らく下巻に書かれているのでしょう。感想は下巻読了後。
2019/03/26
ネムル
熊野灘にかかる大きな虹ふたつ、海に落ちた槇の頭から流れ去るシルクハット、ナイチンゲールからジャンヌ・ダルクに変貌する叫び、ゲス野郎の癖に手を伸ばして水平線に触れる指先、情景の数々が映画的で比類なく美しい。そして物語は豊潤、中上健次の描く叙事詩のような熊野灘とはだいぶ雰囲気を異にする。多幸感に包まれたこの作品に何故「許されざる」と否定形のタイトルがつけられているのか、胸躍らせながら下巻へと進む。
2013/01/18
田中峰和
タイトルが意味するのは誰か。戦争に向かう国家や頭山満のような国粋主義者に抵抗する非戦主義者のドクトル槇なのか。あるいは白米が脚気の原因と薄々わかっていても権威のために認めない森鴎外のことなのか。見る方向が変わればその定義は変わる。軍国主義からすれば槇は許されざる者だし、脚気で死んでいく者からすれば鴎外こそ許されない。著者は新宮出身で作品の主人公のモデルも同郷。その甥が創立した文化学院は、著者の出身校というのも、思い入れが感じられる。幸徳秋水らとの交流も描かれ、その後の大逆事件で処刑される運命が予感される。
2021/09/15
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