許されざる者 下 (集英社文庫)
許されざる者 下 (集英社文庫) / 感想・レビュー
キムチ
日本が近代から現代に進んでいく途上が香る痛快ロマンス・・スペクタル?大袈裟といえなくもないが、史実と虚構をないまぜに作れる筆者ならではの逸品だった。森鴎外・田山花袋、ジャックロンドン、大逆事件の登場人物そして大仏教団の親玉と硬軟織り交ぜて槇、永野夫婦を彩る。日露戦争前後、日本国内外はかようにぶつぶつ泡立った日々だったのだろうか。 槇と永野婦人のロマンスはハーレクイーンばりで結構濃艶。 トルストイなどを持ち出しているのも、旧藩主の香り持つ槇ならでは。平成が舞台では無理だろう。
2014/06/17
田中峰和
明治維新で始まった神国日本。神の国は正義なので野蛮国ロシアなどに負けるはずがないと教育し、国民もそう思い込む。勝ったはずなのに、ロシアから賠償金が取れず、国民は怒り狂った。ロシアは負けたおかげでロマノフ王朝は打倒され革命が近づいた。もし日本が負けていれば、日本の軍国主義化は治まったのか。負けていても大逆事件は起こっていただろう。それにしても署長と女衒君枝の悪辣ぶりが目に余る。署長は永野未亡人と槇の関係を切り裂くため槇に罪をかぶせようとする。史実では、槇は大逆罪で処刑されるが、米国大学に招請されて終わる。
2021/10/12
まると
日露戦争前後の熊野を舞台にした活劇小説。戦争や言論弾圧、遊郭の女性、不知の病など、閉塞感にさいなまれそうな時代を描いているのに、前向きで魅力的な登場人物を配して総じて明るいトーンで物語は進行します。暗い時代を予感させる中でも人々が明るいのは、誰しも未来への希望を捨てずに生きているためか。最後まで許しがたい人物は出てきません。主人公のモデルとなった人物は数年後に大逆事件に巻き込まれ、死罪となっていると知った。タイトルの意味はそんな近未来に彼らを待ち受けている恐ろしい現実を予見する意図なのかもと勝手に解釈。
2019/04/11
雨猫
明治時代の実在の医者、大石誠之助をモデルとした小説。森鴎外や幸徳秋水など実在の人物も出てきて非常に興味深い。日露戦争のことも勉強になった。モデルはいるが、これは事実を交えながらも良く出来たフィクションである。大石誠之助は実際には幸徳事件で検挙され死刑になっているが、ドクトル槇は愛する人と結ばれる。良かった・・・!これを読んだら「坂の上の雲」も読まないといけなくなったなw ☆4つ
2014/05/26
yamakujira
日露戦争前後の新宮ならぬ森宮の情景に、当時の社会の右傾化が伝わる。不穏な未来を感じるのは、希望を宿したラストを嘲笑う現実の歴史を知っているからか。槇、千春、勉、永野、暁子、鳥子、菊子、点灯屋、ネジ巻屋、坂、浜中、すみ子、君枝、スガ、上林、谷、幸徳秋水、石光、鴎外、花袋などなど、虚実ないまぜの数多の登場人物の群像劇は「大菩薩峠」を彷彿とさせる。特定秘密保護法、個人情報保護法、共謀罪、展覧会への介入、天皇陛下万歳、提灯行列、ヘイトスピーチ、同調圧力、こんな現在を槇が見たらなにを思うだろう。 (★★★☆☆)
2019/12/21
感想・レビューをもっと見る