鳩の栖 (集英社文庫)
鳩の栖 (集英社文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
5つの物語からなる連作短篇集。これらの物語の時代設定はいつなのだろう。現代というには、生活文化の全般が古そうだ。なによりも主人公たちが通う中学校が、戦前の中学校のような雰囲気なのだ。女子生徒たちの影が全くといっていいほどに見られない。そして、彼ら少年たちは一様に独特の矜持を持っている。さらには、そこはかとなく衆道の気配もなくはない。ここにあるのは、一昔前のノスタルジックな時間の中を揺曳するリリカル物語群だ。少年の持つ瑞瑞しさや、躊躇いといったものが見事なまでにとらえられた儚くも美しい一場の夢がここにある。
2017/01/27
kaizen@名古屋de朝活読書会
ナツイチで手に取る。短編五話。鳩の栖(はとのすみか)、夏緑蔭(なつりょくいん)、栗樹ーカスタネア、紺碧(こんぺき)、紺一点(こんいってん)。淡々とした語り口と、静かな雰囲気。もの悲しい筋と結末。文学であることは確かだ。文章が美しい。栗と橡の違い。Marronnier, Chestnut, Aesculus, Castanea。カスタネットは栗の木で作るんだ。単行本では装画も担当。女子美出。目指しているものが分からなかった。絵を見て、何が言いたいか半分分かった気がした。他の作品も読んでみよう。
2013/10/28
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
表題作を含む5篇の短編集。少年の透明さと生の儚さ、独特のノスタルジイ。表題作、鳩の栖は短いけれど完璧に完成されている。水琴窟の音、白梅の香り。冷たく静かな雨音。水琴窟は夏のイメージだったけど、あの澄んで丸みを帯びた音が、冷たく張りつめた冬の空気の中に静かに落ちるのは、きっと素敵だろうな。 他に、夏緑蔭も好み。母に連れられた茶舗の記憶、女性の手にうつる夏の緑の蔭、ヨーグルトとシロップの檸檬。
2018/10/13
匠
中学から高校にかけての男子たちの様々な兄弟事情や友情を繊細に描いた短編集。時代は書かれていないが、口調がとても古風だし家の事情なんかも踏まえ、大正から昭和初期あたりをイメージしながら読んだ。個人的に一番共感しやすかったのは「紺碧」とその続編である「紺一点」。せつなさにじわっときたのは「栗樹」。全体的に文体も雰囲気も美しくまとめられ、少年達の優しさや無邪気さがクローズアップされていたが、母性的なフィルターを通した作者の視点を感じた。きっとそれはどの話も当時の日本の厳しい父親像が希薄だったからかもしれない。
2014/02/28
優希
儚くて壊れそうでした。少年たちの静かな感情が感じられます。孤独や淡い愛情が丁寧に鮮やかに描かれていました。文章を選ぶように紡がれた世界はとても繊細で美しい。何処か郷愁を感じさせる雰囲気もいいです。まさに珠玉の短編集ですね。
2016/03/30
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