ノヴァーリスの引用 (集英社文庫)
ノヴァーリスの引用 (集英社文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
奇妙な味わいの小説だった。本格ミステリーに仮託して語り始められるが、登場人物たちそれぞれの語りは晦渋をきわめ、循環する。そして、10年前の事件も、それを語る現在時も、一貫して夜の表象に埋め尽くされているのである。表題のノヴァーリスの文学世界の夜が全編を覆うかのごとくに。語りの速度は遅く、しかも必ずしも結節点に向かって収斂してゆくという訳でもない。ドイツ・ロマン派の濃密な影が随所に付きまとう。読んでいて、その執拗さに辟易しそうになるほどである。これが奥泉作品の特質なのだろうか。しばしは敬遠したくなる程だ。
2018/11/12
マウリツィウス
【ノヴァーリスのペダンチズム】奥泉氏の構成していた文章の巧みは現状に留まらない。それによって英文学を絶対視した明治期文学を批判する性格もまた含める。ノヴァーリス=ロマン主義代表格を出典段階にて先行に挙げるも素材化、自身の有力化起源史を19世紀精神史と重ね合わせるメタ構造を意味しており、古典主義に終焉を告げた現代文学を象徴化を遂げる。謎を呈示するもその正体は《真実(エメト)》を表現した再記録に転換されていく。すなわち《クラシック》定義を再編成した書が奥泉作品の矜持でもあり象徴化理論に該当する。/書物の迷宮美
2013/07/11
てふてふこ
周囲から異質扱いされる石塚の死から10年後。仲間4人で事故の真相を推理するお話。語り主が酔って吐き、禁煙室で朦朧としてるシーンが兎に角怖い。それと哲学。哲学に共通の正解はないと思う。人それぞれ。真相は解らず仕舞いだが、石塚が可哀想だと思った。
2014/02/06
pyoko45
とても楽しく読みました。メタミステリ系の奥泉作品には後半の幻想味が強すぎて、もの分かりの悪い読者である私は道を見失い迷子になってしまうことも多いのですが、本作ではこれまでの伏線や小道具が後半の幻想シーンで見事に生かされていて、コンパクトながら完成度の高いメタミステリに仕上がっていると思いました。
2012/01/22
いのふみ
なんとなく漱石の影響下にありそうな超理知的な文体による観察に笑いが滲む。登場人物たちは石塚の死の原因を突き止めようとしているのでなく、突き止めるような振りをしているように見受けられる。つまり、探偵をしているのではなく、探偵ごっこをしている(その手付きがメタ?)。そして、語り手の「私」は、名前も出ず、周囲から言及もされず、ただひたすら観察者の役割を負う。これらの“不気味さ”が、ミステリー、幻想小説、ホラー、変容してゆくうちに、死の原因が明らかになってゆく。この過程、結末は戦慄もの。
2012/05/08
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