カルチェ・ラタン (集英社文庫)
カルチェ・ラタン (集英社文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
16世紀のパリ。セーヌ左岸のカルチエ・ラタン。ここに、ソルボンヌきっての俊才ミシェル、イエズス会のロヨラとザビエル、さらにはカルヴァンまでが集うのである。主人公は万事に冴えない夜警隊長のドニ・クルパン=手記の語り手である。メインプロットはミシェルの助けを借りてクルパンがいくつかの事件を解決してゆくというものだが、実質的には教皇庁、プロテスタントのカルヴァン、対抗宗教改革派のロヨラ等が混沌と蠢く16世紀のパリそのものが描かれる歴史ロマンだが、文体はエンターテインメント小説を指向しているようだ。
2022/12/31
nnpusnsn1945
電子書籍にて読了。ダメな夜警隊長とひねくれ修道士のコンビの掛け合いが面白い。宗教改革期のパリを舞台にしたミステリー小説だが、昔の書物の体裁をとって時代背景をうまく説明できている。実在したザビエルやカルヴァンから、フィクションのノートルダムの鐘でお馴染みのカジモド等が重要人物として登場している。なお、割りと堕落した町が舞台ゆえ、18禁な描写が多い。
2022/09/27
松本直哉
ザビエルとロヨラとカルヴァンが一堂に会して議論を交わす場面はむろん虚構だとしても、同じ時期にセーヌ左岸で学んだ仲間同士、すれ違ったことぐらいはあるはずで、この時期のこの場所が新しい宗教思想運動の胚胎する土壌だったのは間違いない。折しも檄文事件で新教への弾圧が激化しつつあり、カトリック内部でも新教寄りの思想をもつものも現れ、誕生直後でまだ胡散臭い目で見られていたイエズス会もその一つで、彼らに共通するのはカトリックの旧弊への批判だった。教会に屯する売春婦や彼女らとの情交にうつつを抜かす神父らの描写が冴える
2022/12/17
エドワード
これは16世紀フランスの「ドニ・クルパン回想録」という書物を佐藤賢一氏が訳したものだ。というのは真っ赤なウソ。そこが佐藤氏一流のギャグというかこだわりの逸品。ドニ・クルパンなる夜警隊長にして元パリ大学生と、彼の元家庭教師で神学部の天才、マギステル・ミシェルの巻き起こす青春謎解き物語。三四郎にシャーロック・ホームズを足した感じかな。ドニ君の、古今東西変わらぬ18禁の悶々とした心のウラが痛快。脇役に若き日のザビエル、ロヨラ、ルター、カルヴィンまで登場、キリスト教の愛の教えをトコトン語られて、勉強になったヨ。
2013/05/12
lily
16世紀のパリ大学街カルチェラタンを舞台にミスターパーフェクトの神学僧マギステル・ミシェルと泣き虫夜警隊長ドニ・クルパンが迫りくる難題を解決していく。女性に疎いドニをあの手この手でからかうミシェルとのやり取りには何度もクスリとさせられた。物語自体はフィクションだが後のイエズス会士ロヨラやザビエル,改革者カルヴァンなどの偉人が個性的に描かれ,当時の神学の潮流もおぼろげながらに理解できた。歴史ものでありミステリーでありラブロマンスでもあるごった煮小説だがそれぞれが上手く溶け合う名著。良い読書時間だった。
2020/04/20
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