愛逢い月 (集英社文庫)
愛逢い月 (集英社文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
6つの短篇を収録。配列には配慮がなされており、冒頭の「秋草」は小説世界の幻想空間へのいわば入眠、そして最後に置かれた「内助」は現実世界への帰還と覚醒だ。最後の1篇を除いて、これらの小説の向こうに待ち受けているのは奈落だ。そして、いずれの作品でも「こんなはずではなかったのに」という陥穽に陥った主人公たちの戸惑いが核をなしている。ここに描かれる奈落は、日常の一歩先というよりは日常そのものの中に潜んでいたことに主人公たちも、そして読者である私たち自身も物語の最後に気づかされるのである。
2017/06/22
みも
20~50頁程度の短編6篇。タイトルの風雅さに騙されてはいけない。恋愛小説には違いないがそれは一面的で、本質的には恋愛の殻を被った恐怖小説。夢幻、妖美、耽美…皆川博子さんの世界観をややリアリズムに寄せたような妖艶なる恐怖体験。死の闇が足元から徐々に這い登って来るような作品集。著者の初期作品であるにもかかわらず、既に完成の域に達した様式美が確立されており、女性らしいしなやかな筆致もまた美しい。厭世観を孕ませつつ、歪んだ愛情に没入する女の情念や狂気が際立つが、一方、そこに関わる男達は悲しいくらい卑俗で矮小。
2024/04/26
mariya926
レビュアー大賞の参加賞のクーポンで読んだ本です。竜巻ガールと悩んでこちらのレビューが気になったので読んでみましたが、恋愛の終わりを描いた短編集。恋愛3か月ぐらいが一番楽しくて、終わりが一番苦しいですが、その苦しみを感じながら「そうそう。そうなんだよ」と共感しつつ読み終えました。結婚して恋愛のトキメキはないけど、別れの苦しさを感じない事はいい面ですね。あまりに愛情が歪むと、ある意味恐怖ですね。この作家さんの本をもっと読んでみたいです。
2023/04/12
マエダ
渋い。女性の何を考えているかわからないラインの描写がすごく面白い。勧められ読んだが今までの自分の読書遍歴とはまた一味違う角度の本で満足。
2016/12/30
じいじ
読み終えて知りました、篠田さんの初期の作品だと。巻末の解説で、小池真理子は「6短篇どれも極上の作品…」と、少々ほめ過ぎだが、著者のそのごの大成を匂わせる出来ばえだと思います。情景描写などの多少のゴツゴツ感は、誰でも初期の作品にはみられることだ。文章の歯切れよさ読み易さは、後の篠田節子を感じさせてくれます。ちょっぴり怖いミステリー短篇集でした。
2023/09/11
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