桜雨 (集英社文庫)
桜雨 (集英社文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
小説は3つの時間からなっている。彩子の現在時と、早夜の幻の現在時、そして早夜と美紗江の過去時(昭和10年代)である。この時間の交錯が実に巧みに語られ、小説に確かさと幻想性とを共存させることに成功している。また、着想の元になっているのは、まず、主題と画家の西游は芥川の『地獄変』である。芸術至上主義者たる西游の非日常性と、その人格の造型はまさに昭和版吉秀である。そして、もう一つ、物語の背景を構成するのが池袋モンパルナスである。この2つが組み合わさって、有機的に機能するかが小説の成否を決めることになるのだが、⇒
2023/05/06
森の三時
愛か憎しみか、おそらくその両方。正しいとか正しくないとか、幸福だとか不幸だとか、男と女の間に起こることを他人がとやかく論ずるのは無粋でしょうが、私には女の情念はミステリーである。一人の男を同時に二人の女が愛した、駄目な男と知りながら、けっして報われないと気づきながら。女の盛りは短いとて、開き始めた花びらを止められはしないのだろう。私の求める恋愛像ではないけれど、すごい絵には常人には想像できない苦しみが宿っていることはわかります。速水御舟作『炎舞』を思い出す。
2018/04/19
AN
何十年振りかの再読だが、今回も「やられた」という気分だ。戦前に新潟から東京の美術学校に通うために上京した早夜と、現代の小さな出版社である一振の絵を描いた画家をさがす彩子の二人の視点で物語が進む。池袋近くの芸術家達の住まう池袋モンパルナスで暮らす画家と、その内縁の妻と愛人が繰り広げる愛憎の物語が主な筋。若い頃は、竹久夢二や東郷青児に嵌まっていたので芸術家の業の部分が興味深かったが、今読むと「我が儘であること」と自分の人生を生きる、という点に興味を覚えた。作者の作品としては途中まであっさりしていて、早夜の台詞
2023/01/27
マッピー
現代と戦時中のパートが交互に語られる。現代は三人称で、戦時中は早夜の視点で。それが交差した時が物語のクライマックスになる、と思いつつ…。感情移入できる人物のいない恋愛小説は、なかなか読み続けるのに骨が折れる。終盤、空襲で焼け出された西游と美紗江が早夜の元で一緒に暮らし始めてから、緊張の度合いが高まる。絶対に破局するはずだ、こんな関係。しかし、現在なぜ早夜と美紗江は一緒に暮らしているのか?西游は?最後の50ページは一気読み。そして衝撃の顛末。ひゃ~、途中でやめなくてよかったよ~。だから読書はやめられない。
2019/03/09
cozy
めちゃいい!! 一人の画家をめぐる、二人の女の三角関係と情念。そして戦争でより濃密になる二人の女の嫉妬。さらには現在、一緒に過ごしている老婆になった二人の友人ともなんともつかない関係性に隠された秘密!! ものすごい話で、今すぐもう一度読み直すべきか迷っています。なくなった作家さんだとどうしても手に入りづらいけど、再販してほしいなあ、坂東眞砂子作品。
2017/10/18
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