王様の結婚 (集英社文庫 さ 15-2)
王様の結婚 (集英社文庫 さ 15-2) / 感想・レビュー
えりか
愛は理不尽に終わった。一方的に。そんなのいつまでも引きずる。あの時、君はこう言ってたね、こう笑ってたね。思い出さないようにテレビやラジオ、センチメンタルスイッチを押されそうなものを遮断したって、いつでもふっと甦ってくる。泣いて、転げ回って、苦しい苦しい。でも、いつかまた現れる。今度はきっと上手く愛しあえる相手に。恋に落ち、そして、いつかマンネリや安定や倦怠が訪れるかもしれない。それを平穏と名付けようか、それを平凡なつまらないものと名付けようか。いつかあなたといつまでも穏やかに暮らせれば、それだけでいい。
2017/10/02
こすも
現在、品切れとなっている初期作品(デビュー2作目)で、BOOK・OFFで見つけました。句読点を省いたり片仮名を駆使して意識の流れを表現している実験的な側面がありますが、男のダメさや男女のずるずるを正午さんらしく描いていて、ファンの僕は大満足。構成が緻密で伏線の回収が律儀なのも、初々しくて良いです。
2017/08/21
majimakira
デビュー作「永遠の1/2」でのすばる文学賞受賞後の二篇。古書で苦労して手に入れる…。ジョン・レノンが死んだ日の重い失恋、そこから時間をかけて言葉を紡ぎながら、再生の在処を手繰る男と、三十手前の、まだ残る青春の中を惑うかつての同級生。味のある表現と文体も荒々しい表題作、印象深い。「言葉で表わせない感情なんてない。言葉があるから感情がもてるんだ。」正午さんの実体験に基づくという短篇「青い傘」も魅力的。返しそびれの一夜の相手の傘をモチーフに、慎重さと臆病さが育つ心中と荒い恋心の間の葛藤が巧みに描かれている。
2022/02/27
momo
初期の二編が収められています。「青い傘」は「永遠の1/2」の田村が登場し、主人公である伊藤先生の内面がユーモラスに書かれていて楽しく読めました。「王様の結婚」は、坂本と鐘ヶ江の内面がよくわからなかったので何度も読みました。十代後半からの十年間で二人の男がどのように失恋し、新たな恋を手に入れたのかが細やかに表現されています。恋愛関係がやがて平凡な毎日と化し、関係が崩れていく様子が激しく、寂しく描かれていて、なんとも複雑な世界です。人のことも自分のことも傷つけることを恐れずに生きる姿を懐かしく思いだしました。
2017/10/18
ponnnakano
およそ30ページにわたって改行のない、過去を思い出すシーンはその辛さが繰り返し伝わってくるようで苦しかった。そして、その辛くて受け入れがたい過去(の失恋)を乗り越えて、どうにか生きることをやり直す決意をする主人公とその今の恋人のこの先の幸福を祈る。仕事と生活に疲れてすり減った挙句、全てをリセットすることにした友人の方はどうなるんだろう?うまくいきそうな気がしない。踏みとどまってやり直す方がいいんじゃないかな、と思う。が、そう決めたのなら、もう何も言わない、応援しようという気持ちもわかる。気がする。
2019/09/29
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