遠き落日 下 (集英社文庫)
遠き落日 下 (集英社文庫) / 感想・レビュー
湖都
上巻ではだらしのない男というイメージだったが、下巻では力を思う存分発揮して地位と名誉を確立していく野口英世。相変わらずお金には無頓着だが、努力を惜しまずに実験を続ける様は好ましい。そして嬉しい時に両手を挙げて阿波踊りのように踊りだす癖が可愛い。一方で、性急に結論を出して発表しようとする癖は、現代だとより受け入れられないだろうと思う。黄熱病が何だったのか結局わからなかったと嘆く死の直前の英世は、自分の一生がここで終わることに全然納得してなかったんだろうなぁ。
2019/02/09
ふぇるけん
野口英世の伝記後半。海外渡航からメキシコで病に倒れるまで。身一つでアメリカに渡り、梅毒の研究で名声を得るまでと、凱旋帰国の後の研究での伸び悩みに対する苦悩。そして黄熱病研究で成果を上げられずに焦るあまり、危険な地域を飛び回って最後は病に敗れた無念。これらの英世の足跡から当時の様子が生々しくよみがえってきた。
2014/03/14
又三郎
神格化された野口英世像を徹底的に打ち崩した伝記。野口英世伝記に関しては、既に見直しの流れにあったけどここまで徹底的なのには驚く。前半ではあまりの下衆さに辟易したけど、次第にこの破綻ぶりにこそ魅力を覚えた。ある意味一本筋の通った人格破綻だと思う。駄目な人間には違いなけど、だからこそ洗浄された英世像には絶対にない人間性があった。 壮絶な人生の最後の言葉、「わからない」はグッときた。完全敗北した男の言葉だと思うと、何だか分らないけど泣きそうになる。この気持ちは全く説明がつかない。
2014/01/10
AICHAN
渡米してからも英世は周囲や日本の友人たちに借金を重ね毎日ほとんど眠らないで研究を行い栄誉を求めて邁進した。戦後の日本の高度成長期のように貧困から脱出し高みに昇りつめようと必死に働いた。しかし英世は勇み足で研究上の過ちを犯し細菌学者として転落する。高度成長期の後、日本経済が次第に落ち目になったように。『遠き落日』とは一旦は認められた研究成果が晩年に否定されたことなのか、故郷で朽ちた母のことなのか、黄熱病に倒れて見た現実の夕日だったのか。会津のバスガイドはまだあの歌を歌っているのか。
2011/08/14
ホレイシア
親が子どもに与える影響について、某所で喧嘩中(笑)。そこで、どうしようもない親を持ったけど頑張って偉人になった例として挙げられたのが、こいつ。えー、そうだっけ?何か違うような気が…というわけで、買うのもバカらしいので図書館へ。まあ著者が著者だし小説だし、あとはどこまで信じるかだが、お札になったからといって「偉いだけの人」じゃないことはとりあえず確認。
2010/11/13
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