花衣ぬぐやまつわる… 下 わが愛の杉田久女 (集英社文庫)
花衣ぬぐやまつわる… 下 わが愛の杉田久女 (集英社文庫) / 感想・レビュー
優希
高浜虚子との出会いにより、俳句の才能を伸ばしていく久女。天才俳人の名をも手にしたものの、突如坂道を転がり落ちるように世界が変わるのが恐ろしかったです。突如除名されたことで待っていたのは不幸な生活でしかなかったですからね。様々な不運が重なりながらも懸命に生きる久女。芸術と家庭の間で懸命に生きた天才女流歌人の辛い真実を見たようでした。
2018/06/09
ひらちゃん
ユダにもなれずノラにもなれず。ホトトギスを追われ、戦争の中の孤独な姿、それでもずっと胸に抱え守ってきた俳句を。そしてあまりに辛い最期を。久女伝説の彼女はやはりここにはいない。没してなお追い討ちをかけた虚子にどうしてここまでと問いただしたい。娘さんもやり切れないでいただろうに。俳諧の重しがとれて、やっと本当の久女像が見えるようになった。自由になれた今なら久女はどんな句を読むだろうか。
2021/09/22
松本直哉
まるでもつれた糸を少しずつ解きほぐすようにして、杉田久女にまつわる伝説や風評の根拠のないことを明らかにしていく手つきはまことにあざやかで、しかも、この高潔で孤独な俳人への敬愛に溢れている。高浜虚子宛の手紙で「私は唯芸術に奉仕し久遠の俳句に向ふばかりであります」と宣言するとき、久女には自らの詩業へのゆるぎない自信と矜持があったが、一方、第二芸術論が世に出たとき「ほほう、俳句も芸術になりましたか」とうそぶいたと言われる虚子にとっては、このような芸術家気取りこそうとましく思えたのではないか、というのは私見。
2024/08/13
Rico
友人に杉田久女の俳句を紹介してもらい、そこから松本清張の「菊枕」を読んだら、「菊枕」に描かれている久女(ぬい)はご本人とは違う、という指摘を見つけ、田辺聖子版も読んでみることに。確かに田辺さんも指摘されているように、松本清張版は、久女を描きたいというより、松本世界の短編集になっていたので、こちらの方が丁寧な文献の読み込みや考察に基づいていてご本人像に近いのではないかと思う。何より田辺さんの愛情あふれた目線が感じられて、女性俳人の昭和初期における地位などを含め、女性から納得度の高い描き方になっていた。
2020/08/18
haruko
杉田久女が、こんなにも苦しい一生を終えた女性だったとは全く知らなかった。心の通じ合えない夫婦、俳句にのめり込み、他は何も見えなくなる妻。しかし二人の娘を見捨てることは出来ない。ノラにもなれず、と、彼女は詠んでいる。「ホトトギス」会員となり、師と仰ぐ高浜虚子からも、あまりの激しさ故か疎まれる。戦後昭和21年に久女は精神病院内で栄養失調のため57歳で没。結局彼女は何も報われず怒りのうちに死んだことになる。何故もっと早くに夫と別れなかったのか、何故、虚子を見捨てて他へ目を向けなかったのか?読者に悔しさがつのる。
2013/01/11
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