紀伊物語 (集英社文庫)
紀伊物語 (集英社文庫) / 感想・レビュー
やまはるか
1984年、38歳、病死する8年前に発表された作品。同じ年、日輪の輪、物語ソウル、熊野集が発表されている。本作品は島と路地を舞台にするが、後半の展開は作家の出身地の近くで発生した毒ぶどう酒事件を思い起こさせる。「道子はフェリーの着く地下の船着場の方にむかって歩いた。足音が小さく、それが自分の気持ちみたいな気がした。」手にふれたシミーズの冷たさとか、握った木の枝のゴツゴツとした感覚など、初期の作品からとおして文字に捕えられた「感覚」が自分の経験のように残っていて、自分が文学に憧れる大きな要素となっている。
2023/07/28
nina
崩壊寸前の路地。その断末魔の呻き声は輝くような美少年半蔵二世の率いる「死のう団」が奏でる爆音と重なり、地獄から呼び覚まされた路地の人々の魂とともに大きなうねりとなって路地の隅々まで響き渡る。「マザー、マザー、死のれ、死のれ」。女を知らない少年のかすれた声をききながら、「兄妹心中」に唄われたとおりに愛を知った兄と妹がまぐわい、あげる歓喜の声。女の腹が受け入れ続けた男らの精と、女らの憎しみが溶け合い生まれた甘い毒が、崩壊の愉悦にひたる何百年と続いた路地の淀んだ血の終焉を告げる。
2014/10/18
M村
今回は、オリュウノオバの死から路地の消滅までが書かれていて、面白かった。というか読みたい部分であったので興味深く読めた。路地を愛し、路地を知り尽くしたオリュウノオバの死が、路地の崩壊を決定づけた感じがした。路地の消滅に伴う、路地の血の本流で、最も高貴な血を持つ中本が、路地の人が路地の外に目を向け始めたとたん穢れた迷惑な血とされ始めたのがなんともつらい。道子に関しては、路地ではありがちな近親相姦であり、悲劇のラストも路地の歴史から見れば特別な物でなかろう。特に感想なし。
2014/10/09
東森久利斗
聖典、経典、題目、念仏を思わせる神聖な精神世界。淫蕩、カストリ、怒り、…、に象徴される現世の悪徳。両者のせめぎあい。行き着く先は、聖地かユートピア、はたまた地獄の門か。活字の海に浸りたい溺れたい時、活字の魔力に酩酊したい時には、最適の一冊。初心者は要注意。
2018/10/25
眠りスナメリ
学生の頃に読了。中上健次は読むのにエネルギーがいる、体力気力の無い今だと辛いかな。「主人公の道子はベストオブ性格悪主人公」が、身も蓋もない当時の感想(次点がTUGUMIのつぐみだった)。
感想・レビューをもっと見る