夜の声 (集英社文庫 32-C)
夜の声 (集英社文庫 32-C) / 感想・レビュー
マーブル
恐怖と怪奇幻想に満ちた超現実小説。そう書かれた小松左京の短編小説集。長編の際に期待する、知識の巨人たる小松らしさは物足りないかもしれないが、肝であるアイディアは古さを感じさせない。もちろん女性についての描写や、夜な夜な飲み歩く様。自分の知らない昭和の時代が垣間見られる。ことに、最近興味のある戦後の日本については小説を楽しむのとは別に味わうことができた。小説の中に封印された時代の風景。古臭い、理解できないと切り捨ててしまうか、貴重な情報源とするか。近現代の作品もいずれ流れる時の中、そうなっていくのだろう。
2021/07/20
KANEO
小松左京のSF短編集。収録されている9篇の内、4篇はショートショートサイズ。表題作は星新一の『夢魔の標的』を、『腐蝕』はジョン・ウィンダムの『呪われた村』を彷彿とさせる。後者は『呪われた村』とはまた違った著者らしい厭らしさと気味悪さを味わせてくれる今回一番のお気に入り。著者の終戦直後の体験が反映されている『廃墟の彼方』と、30代になった学生時代の仲間たちが、その頃の自分たちと知らぬうちに邂逅する、文学的な文章が印象的な『哲学者の小径』も切ない郷愁を感じさせる良作だ。
2014/10/26
酔花
我々の属する世界とは異なる次元の存在から侵略を受けるが、それは我々が幾多も成してきた行為と何が違うのかと重い問いかけが印象的な表題作他、小松の戦争体験が大きな比重を持っている「廃墟の彼方」、図らずともある種族を滅ぼしてしまった主人公たちに課せられた定めと生命の進化を描いた「適応」など、大ネタはないが小松らしいエスプリが利いた文体ですらすら読ませる。学生時代を過ごした京都で若い頃の自分と遭遇する「哲学者の小径」は時のもたらす変化との直面や、それからもたらされる青春との決別がほろ苦くとも爽やかな余韻を残す。
2013/11/10
嫁宮 悠
赤外線や紫外線が人の目に見えないように、人間の認識する世界の外には、見えないだけで異様な世界が広がっているのかもね、という短篇九篇。出張取りやめによって発覚した妻の浮気疑惑。夜中に家を抜け出してどこかへ行っているようだが、彼女にはその記憶がない。同時期に会社の同僚も妻の浮気を訴え、近所では男性の不審死が起こっているが、果たして関連はあるのか、という『腐蝕』が伊藤潤二の作品並に薄気味悪く、印象に残る。(と感想を書き終えて読メで本作を検索したところ、伊藤潤二の作品がいくつかヒットした)
2017/06/12
紙魚
気になっていた作家の短編集。知っている作品の中ではラヴクラフトのクトゥルフ神話や恒川光太郎の作品が近い雰囲気だと感じた。SFの大家と名高いことにも納得の、これぞSF!って感じの不思議で不気味な世界観。ただそこまで印象に残る作品はなかったかも。作者の本は長編の方が面白いとも聞くので、今度機会があれば長編も読んでみたい。
2024/01/21
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