鳩どもの家 (集英社文庫)
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鳩どもの家 (集英社文庫) / 感想・レビュー
Vakira
「時代を語るな。想像を語れ!」中上健次のまるっきり初期の3つの短編集。多分芥川賞受賞前の作品ですから書いている本人も主人公と同様な歳でしょう。十九歳。高校生から卒業。両親からも卒業。生活の社会的責任は親から子へ。自分の身体は自分の物となる。自殺しようが、薬付けになろうがそれは自分の決めたこと。しかし、働かなければ自分の生活は成立しない。なんと中途半端。薬だって買えない。金を稼ぐと言う事は社会に貢献する事。貢献もしないのに自我より吐き出す物はイッチョ前。精液だってぶっ放す!お!この感覚、初期の大江健三郎感。
2023/09/12
メタボン
☆☆☆★ 表題作は大人になりきる前の通過儀礼的な、不安定な時期の少年の心情が良く表れていると思う。複雑な家庭事情という作家の背景も既にテーマとして確固たるものに感じた。中上健次の初期作品として読んでおいて良い作品と思う。「日本語について」は村上龍の解説にもあるとおり、大江健三郎の影響が見える。当然大江の文体とは違うものの、黒人兵、反戦学生、僕、菜穂子といった登場人物の小説での取り扱い方は、大江の初期作品群と共通するイメージを抱かせる。「灰色のコカコーラ」は鎮痛剤でラリる予備校生のぼくが、ある意味痛ましい。
2021/02/25
梟をめぐる読書
撰集や文庫本に採録されることの滅多にない、貴重な初期短編を三作収める。まずは冒頭『日本語について』。左翼学生を介したアルバイトや黒人兵との共同生活など大江健三郎的な要素が随所に見られる作品だが、マイノリティに対する共犯的な視線のうちに「路地」出身者の作者による連帯の可能性への期待も垣間見え。『灰色のコカコーラ』は佐藤友哉の『灰色のダイエット・コカコーラ』を読んで以来、読みたかった作品。「意識の流れ」のような文体で物語性は皆無だが、世界そのものばかりでなく自身の肉体さえをも対象にしたこの嫌悪には覚えがある。
2015/07/10
ハチアカデミー
C 中上健次初期の作品三編所収。名作『枯木灘』に至るまでの道筋を想像しながら読む分には良いが、初期の習作というもの以上ではない。田舎から上京し、緊迫する社会の中で放蕩にふける若者を主人公とした「日本語について」「灰色のコカコーラ」は、得体の知れぬ焦燥感と暴力が垣間見えはするが、駄作であろう。本書の肝は表題作。家で鳩を買う兄弟と親子の物語。ひらがなで書き付けられる念仏、母の罵声、親への呪詛など、後の文体・モチーフの萌芽を見ることが出来る。それにしても、これらの作品から才能を嗅ぎつけた編集者の慧眼がすごい。
2012/07/23
もろろろ
思わずクラクラする読書体験。若者に潜む原型のような神話がここにはある。
2010/09/15
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