ムッシュー (集英社文庫)
ムッシュー (集英社文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
主人公に名前が与えられておらず、ムッシューだなんて随分人を食った小説。29歳のエリートサラリーマンとの設定は具体的だが、容貌等については、社内の女性社員たちに注目されるといった、いたって間接的な表現。また、相手の両親も公認のフィアンセが10代であったり、そこそこは裕福なはずなのに、間借り生活をしたり(短い期間ではあったが)と、なんだか謎の部分も。そして、最大の特徴は主人公のムッシューには、いかなる苦悩も葛藤も存在しないということ。それこそが、ムッシューとこの小説の飄々としたムードを形作っているのだが。
2017/05/28
新地学@児童書病発動中
ムッシューと呼ばれる主人公の控えめな生き方を淡々と描く小説。本当に独創的な小説だと思う。主人公の名前からして風変わりで、普通の小説とは全く違う。具体的な名前はなくて、ただ「ムッシュー」だ。彼は、自分のまわりと人と摩擦を起こさないように生きている。これも普通の小説では考えられないことだ。この2つの趣向によって、独特のユーモアと透明感が生まれる。ふらふらした生き方をしているムッシューが、人とつながる最後の場面は感動的だ。彼の新しい恋人の手の温もりを読者も感じてほろりとする。最後の一行に大笑いした。
2017/05/02
ふう
ムッシューさんが穏やかでユニークで、彼なりのユーモアのセンスもあっていい人だから、わたしものんびり読み終えました。感想を書くのはとても難しいのですが、いいなあと共感できたところが1か所。『夕食後ムッシューは、屋根の上にのぼったーそして椅子を片手に、あらゆるものから静かに遠ざかった。』 屋根の上でなくても、一人で静かに空を眺める時間は誰にでも必要です。夕方の空、星空、朝焼けの空。パリのすてきな紳士もどこかでバランスをとっているのでしょうか。 感想になりませんが。
2017/08/25
KI
名前も顔も知らないけど、いろいろな人がいるもんです。
2019/07/12
ソングライン
「浴室」では不条理な世界との拒絶が描かれていましたが、本作では教養あるエリート社員の主人公ムッシューが仕事、隣人、婚約者、家主そしてバーで隣り合わせた他人との関りを自己主張することなく片づけていく様子がユーモラスに描かれます。一見クールに見える彼も恋した相手に心情を打ち明けるのに苦労します。若者の望まれる理想像のようなムッシュー、可愛いのです。
2024/05/23
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